光くんとバレンタイン


はーあ、なんでバレンタインなんてもんがあるんやろうか。朝から靴箱やらロッカーやら机ん中やら手渡しやら…受け取って家に持ち帰らなあかんこっちの身にもなってみい。

「どないせえっちゅーねん」

鞄の中に収まりきらない色とりどりの箱に溜め息がもれる。

今日が2月14日だと気づいて、更にはバレンタインだということにも気づいていれば紙袋のひとつも用意したものを。今朝いつもどおりに家を出た自分に理不尽な苛立ちが込み上げる。

「こらこら光くん、溜め息ばっかり吐いとったら幸せが逃げてまうよ」

「…なまえ先輩」

なんで二年の教室にいはるんですかと言葉にする前に「謙也くんが探しとったで」と言われた。

「あとこれ、委員会の回覧」

「どうも」

先輩から回覧を受け取り鞄の中に突っ込もうとした。が、既に鞄はいっぱいいっぱいで、俺は回覧片手にどないしようかと固まってしまった。

「わ、光くん大量やね」

「持ち帰るん大変なだけや」

「酷いなぁ…。あ、それやったらわたし紙袋持ってるし、よかったら使う?」

かさっと掲げられた紙袋が天からの贈り物に見える。

せやから俺は珍しく素直にそれを貰うことにした。

先輩は紙袋に入っていた中身を鞄の方へ移していく。

「はい。ほな、わたし職員室行かなあかんから」

ばいばーいと手を振って出ていくなまえ先輩の背中にお礼を言うて、紙袋の中にチョコやらなんやらの箱を移動させる作業に取りかかる。

「…あれ」

紙袋の口を広げると、そこには四角い箱がひとつ、ぽつんと取り残されていた。

見るからに自分で結ったリボンと箱の隙間に『部活頑張ってね』と書かれた小さなメモ用紙。

この字は間違いなくなまえ先輩やな。

鞄への移し忘れ、ということでもなさそうやし…。

「一言なんか言うてったらええのに」

ま、悪い気はせんけど。

またひとつ増えた四角い箱。紙袋のおかげかそれとも別に理由があるのかはわからないが、バレンタインも悪くないかと思った俺の足取りは軽い。



End




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