自覚が遅い白石


なまえとは家が近所で、物心ついた頃にはもう一緒におった。

一緒におるんが当たり前になっとったし、なにより楽しかった。

それがいつからか、天然にぼっけぼけのなまえを守ったらなあかんと思うようになった。

まるで兄妹みたいに。

なまえが俺と同じようにテニスを始めたのも嬉しかった。あの頃はまだ男も女もなーんも考えとらんかったから、お互いに遠慮なしに…ただ、がむしゃらに練習しまくった。

まるでライバルみたいに。

しかし、ある頃からか…俺の隣を走っとったなまえが、少しずつ。離れていった。

その距離は段々開いていって、はっと振り返ってみたら、後ろになまえの姿は見えんようになっていた。

そこでようやく、俺はなまえとの…女の子との違いを知った。

スピードも。体力も。いつの間にかなまえとは違うそれになっとった。

それから少しずつ。今度は心の距離が開いていった。

俺は男の友達といるようになり、なまえは女の友達といるようになった。

それが当たり前のことやと分かっってはいる。けど、俺の今までの“当たり前”には…真っ先になまえが隣におった。

友達とおっても、何かが足りないような。物悲しいようなわけの分からん気持ちばかりが溢れていく。

「なぁ、みょうじさんって可愛ええと思わん?」

「!」

「あー、分かるわ。なんや放っとかれへんっちゅーか」

「せやねん!なんやろ、癒し?なー、白石もそう思うやろ」

「え、あー…せ、やな」

なまえの名前が出た途端、急に肩叩かれた時みたいに心臓が跳ね上がった。

それから胸んとこが痛苦しくなって…。

正直同意求められても全然聞いてへんかったから何の賛同したのか自分でもわからん。

ただ、めちゃくちゃ胸騒ぎっちゅーか。焦燥感みたいなもんが胃の辺りをきりきり這いずり回っとるような気がする。

ちらりと視線を動かせば、なまえの姿が目に入る。

柔らかい笑顔。相変わらず天然ななまえの、時々ズレた言動。

「可愛ええなぁ」

呟きに頷きかけた自分に驚く。

「(なんやこれ…。こんなんまるで…、)」

ロードワークの後みたいに早い心臓の脈打ちに気がついた時、俺はようやく結論に行き着いた。


まるで恋のよう。



End




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