忍足くんと実行委員
隣の席のみょうじさんは、少し変わった子やと思う。
別に変な言動したり、見た目が奇抜やったり、そういうことやない。
むしろ、何もないくらいや。
ポーカーフェイス、って言うたらなんやかっこええけど、俺は彼女の怒った顔も、泣きそうな顔も、満面の笑顔も見たことがない。…と思う。
つまり、無表情っちゅーことや。
それは表情だけやなくて、声も同じ。
言葉は感情を表すそれでも、その言葉に声が追い付いていない。
そんな感じの子。
そんな彼女が、今度学校で催されるイベントの、実行委員になった。
「(別に、嫌いとか…そんなんやないんやけど、)」
得意では、ない。
二人で実行委員会のミーティングが行われる教室へ向かいながら、ちらりとみょうじさんを横目で見やる。
結構こういうイベント事が好きな俺としては、実行委員会で活躍して、自分も周りも楽しかった言うて終われたら最高やと思う。
しかし、これから一緒に作業するパートナーが、まさか最初の壁になろうとは。
みょうじさんはいつもの感情の読めない表情で、ぱらぱらと作業内容資料を流し見とる。
やる気は、あるみたいやな。
無表情っちゅうんは、なんも言うとらんでも何処かつまらなそうに見えてしまうもんや。
せやから、やる気があると分かっただけでも、俺は内心ほっとした。
「忍足くん」
「え、あ、なん?」
「ここだよ、ミーティング」
「あ。お、おう」
うっわ、めっちゃ恥ずい!
ぼーっとして教室の番号とかまったく見とらんかった。
少し通り過ぎた教室の入り口に戻り、適当な席につく。
暫くして他のクラスの委員たちも集まって、ミーティングはほぼ定刻どおりりに始まった。
そして、ミーティングが終わった後、俺は思わずみょうじさんに自分から進んで話しかけた。
「いやー、みょうじさんめっちゃやる気やん!」
「え、うん。じゃなきゃわざわざ実行委員なんて立候補しないでしょう。忍足くんだって」
「確かにせやな。せやけど、あそこまで積極的に意見言うてるん見たら、こっちまでやる気倍増って感じや」
「それは…よかった。こういうイベント好きだから、楽しくしたいって思うよ」
「…、」
俺にとってとても衝撃的やった。
ミーティングでバンバン意見とか質問とかしていくみょうじさんを見て、やる気とか、このイベントを成功させようっちゅー思いを目の当たりにした。
それだけでも俺には十分衝撃で、彼女に対する印象がかなり変わったんは言うまでもないこと。
それに加えて、彼女が言った言葉。
それは、俺が実行委員になった理由と同じ。
『イベントが好き』で、『楽しく』していきたいという想い。
「忍足くん?」
表情は相変わらずやけど、急に黙り込んだ俺を小首を傾げて見上げるみょうじさん。
「…俺、みょうじさんのこと誤解しとった」
「そうなの?」
「ああ、すまん」
「…その誤解は、結果的にはいい方向に解決されたんだと思っていいのかな」
「もちろんや!必ず、さいっこーのイベントにすんで、みょうじ!」
「…うん、よろしくね」
目を細めたみょうじの表情が、少し笑っているように見えた。
窓から差し込む夕日が眩しかった、それだけかもしれへんけど、俺にはそれが、とても綺麗な笑顔に見えた。
一歩ずつ、キミに近づけている気がした
「えと、わたしも忍足って呼んだ方がいいのかな」
「あー、なんやそれやとユーシと被る気ぃするな…」
「ユーシ?」
「謙也でええで。みんなそう呼ぶし」
「分かった。じゃあわたしのことも名前で呼んで」
End
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