弱音を吐く謙也


◇名前変換なし。


「ねえ謙也、…重いんやけど」

「…後もうちょいこうさせたって」

すみませーん、これなんていうイジメですか。この会話何回やっとると思ってるん。もうちょいってどれくらいやねん。もう最初の「もうちょい」から二十分以上は経ってるんやで謙也くん。

わたしと謙也以外には誰もいない部室。

つい一時間くらい前まで三年生の送別会をしていて、いつもどおり喧しくごった返していた、見慣れた部室。

なのに今はしーんと静か。

椅子に座ってるわたしの後ろから、謙也が立ったまま抱き着いて…むしろもたれ掛かっている状態。疲れへんのかしら。

「…なんで泣いとるん、謙也」

わたしの肩に埋まった謙也の眩しい金髪をわしわしとかき混ぜる。

「泣いてへんわ」

分かってる。わたしの肩、濡れてへんもん。
でも、泣きそうやんか。顔は見えんけど、なんとなくそう思った。

「俺、悔しいねん」

「…うん?」

弱々しく話し出した謙也。正直ちょっとだけびっくりした。
聞いても話してくれんのやろうな、と思ってたから。

謙也は弱音を言わないやつだったから。

「三年で最後の全国大会、…俺は最後の試合に出んかった。千歳んこと責めるつもりなんてないんや。千歳はよおやったと思う。けど、」

ぽつぽつと吐き出すようにして話す謙也に、わたしはただただ相づちを打つことしか出来なかった。

「自分が全力出して戦ったわけやない結果が…やるせない…」

わたしの肩が、じわりと濡れていく。

鼻の奥がつんとして、少しずつ視界がぼやけていく。
泣くな。自分に言い聞かせて、ぎゅっと目を瞑る。

「…なんでお前が泣くねん」

「泣いてへんわばか…っ」

ごしごしと袖で顔を拭う。

謙也はもう、しっかりと顔を上げて立っていた。

「…おおきに」

くしゃっと謙也の大きな手が、わたしの頭を撫でた。

「…なんのことやら」

わたしはいつもどおりり謙也の手を引っ張って部室を出た。
謙也もいつもどおりに笑っていた。

少しだけ違うのは、謙也の笑顔が少し大人びたように見えたことだ。



End




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