コラさんを撫でる


「…」

「…え、と…どうしたなまえ?…あ、ソファ使う?おれ、邪魔?」

「え、ううん。大丈夫」

「あ、そう…」

ソファの右端に座り、新聞を読んでいたおれの目の前に…なまえがいる。
おれをじっと見たまま、そして立ったまま…そこにいる。

なんだ?おれ、何かしたか?
別に怒ってるわけじゃねえみたいだけど…気になる…。

「コラさん」

「な、なんだ?」

「頭、撫でてもいい?」

「あたま…?え、頭?」

「うん、頭。撫でてもいい?」

予想外の言葉に困惑しているおれに、再度言葉を繰り返すなまえは…なんというか、うずうずしているというか、わくわくしているというか…。
その手はもう彼女の胸の位置にまで持ち上げられていて、まさにスタンバイ完了って感じだ。

「別に構わねえけど、」

「やった!」

「なんで急に」

「そこに頭があったから、かな」

「どっかで聞いた事あるセリフだな、それ」

「ふふっ」

おれの頭にそっと置かれたなまえの手は、髪を整えるように優しく、ゆっくりと動く。

非常に、こそばゆい。

そういや、頭なんて触られる事…滅多にないもんな…。
おれもいい年だし、背も無駄に高くなったし。

あー…、新聞の内容、全っ然頭に入ってこねえ…。

「前に、『背の高い人は頭撫でられるのに弱い』って聞いたことがあるの」

「んー、ちょっと分かる…」

「だからね、最初はそういうつもりでコラさんの頭撫でる機会を窺ってたんだけど、」

「え、そうだったの?」

「でも、いざチャンスが来たら…なんだか“撫でてあげたい”より“撫でさせてもらいたい”っていう気持ちになっちゃった」

勝手だよねぇ。なんて、困ったような笑顔で言うなまえの手は、相変わらずおれの頭を撫でている。
小さいけど、柔らかくて、あったかい。

「なぁなまえ」

「なーに?」

「おれも、撫でさせてもらいたくなった」

もう何処まで読んだか分からない新聞を、ソファの左端に放り投げ…目の前に立つなまえの頭へと手を伸ばす。

おれの身長、無駄に高くて良かったかも。

伸ばした手でわしわしとその頭を撫でまわせば、なまえは楽しそうに笑いながら抗議の言葉を言ってくる。

「『背の高い人は頭撫でられるのに弱い』って、あれ…間違ってるね」

「そうかぁ?おれは結構嬉しかったけど…」

「背の高くないわたしも、頭撫でられたら嬉しいもの」

「…そっか」

笑いながら頭を撫であうおれたちは、きっと傍から見たら滑稽なんだろう。

でも、ほんの小さな喜びも、共有できる相手がいるから幸せだって感じられるんじゃないだろうか。

もしかしたら、そう思えてる事こそが、一番の幸せなのかもしれない。



end




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