キッド海賊団の平船員
ひゅるるるる、どかーんどかーん!
真っ直ぐこっちへ向かって飛んでくる大砲。
いくつかは船にぶつかってどっかんどっかん凄い音をさせてはぐらぐらと船体を揺らす。
最初の頃はこの揺れに船酔いしたものだ。
でも、今では「敵襲だァアア!」と何処か嬉しそうに雄叫びを上げて甲板へ向かう野郎共に続いて走るくらいはできるようになった。
わたしの成長と順応力素晴らしいと思う。誰も褒めてくれないけどさ。
血気盛んなキッド海賊団に喧嘩を吹っかけてくるなんて一体どこの命知らずなんだろうか。
相当腕に自信があるか、手配書を見ていないおまぬけさんのどっちかだろう。
戦闘するための得物を持って甲板へ出れば、既に切った張ったの大乱闘が開催されていた。
わたしはこの甲板への出入り口となる扉の前でフライパンと包丁で応戦するコックと共に扉付近で戦闘を開始する。
キッド海賊団は、頭を筆頭に喧嘩っ早いというか血の気が多いというか、とにかく売られた喧嘩はだいたい片っ端から買っていくようなオラオラ系の一味だ。
だから基本的にはこの船に『非戦闘員』という船員は存在しない。
幹部クラスの危険が服着て歩いているような人たちとは比べものにならないとしても、コックはフライパンや包丁、船大工はスパナやドリル、わたしのような平船員中の雑用係でも、物干し竿や裁縫道具なんかで地味にダメージを与えることができる。
ちなみに、今日の相棒は鉄製のモップ。
「おーおー、盛り上がってるじゃねえか」
「あ、頭!」
扉付近でモップをぶんぶん振り回していたら、凶悪な笑顔の頭が船内から現れた。
頭の笑顔があまりにも凶悪なせいで、わたしの周りにいた敵の平船員(多分)は「ひっ」と声を上げた。
いやいや、頭これかなり機嫌いい時のお顔だからね。見えないかもだけど。
「頭ァ!出てくるの早過ぎですぜ!」
「うるせー。俺の相手がいなくなっちまうだろうが!」
あーあ、かわいそうに。
もちろん敵の海賊の人達だ。
完全に暇つぶし程度にしか見られてないもの。
しかも戦闘中にこの態度ですよ。
そりゃあ「くそ…っ、ナメやがって!」って言いたくなるよ、わかるわかる。
ていうかちょっと待って。
頭が出てきたってことはあれだよね。
そうそう、ス…っと手を翳して…。
「ぎゃああああ!」
やっぱりあれだよ!磁力合体!
やっぱりね!そうだよね!しんどいね!未練はないけど!
とかなんとか言っている場合じゃなくて、頭のほぼ真後ろあたりに居たわたしはその磁力に物凄い勢いで引っ張られた。
モップなんで鉄製なの?馬鹿なの?
「…おいなまえ、なんでてめえまで来てんだよ」
「うぎぎ、そりゃ頭の能力で引っ張られてるからです。運命の赤い糸とかではないです」
「いや、モップから手ぇ離せよ。アホか」
「だってこれ離しちゃったら丸腰になっちゃうじゃないですか。わたし取っ組み合いとか自信ないです!」
「なら、手ぇ離して俺の後ろに隠れてろ。守ってやる」
「か、頭…っ!」
会話をしつつも色んな物が飛んでくる。マジ危ない。死ぬ。
そんな状況下でも、敬愛する頭が守ってくれるなんて言ってくれた日にはもうこれはキュンとせずにはいられないよね。
海賊だって女の子だもん。胸キュンですよ、胸キュン。
「…だが、断る!」
「あぁ?」
「だって頭の後ろ怖いんですもん!剣とか銃とか大砲とかヒュンヒュン飛んでくるし!」
「バァカ!俺が能力で集めてんだから後ろまでいくかよ」
「でも怖いものは怖いんです!自分に向かってくるみたいで…」
「…おい、なまえ」
「うお、なぁにキラー?」
「お前、腕に銃めり込んでないか?」
「うんうん、そうなの!ちょー痛い!痣とかなったらどーしよ」
「…とりあえず離れるべきだと思うが」
「キラーも言ってんだろ!とっとと手ぇ離せ」
「だから!丸腰に!なるんだってば!どぅーゆーあんだすたん?!」
「うぜえええ!リペルッ!」
「うぎゃあああ!ぐへぇっ」
結局、頭が無慈悲にも集めた色んな物を反発したおかげで、わたしもモップにつられて敵陣営の方に吹っ飛ぶ。
その辺にいた敵の人にぶつかって、なんとか海にダイブとか背中強打とかは免れたけど、どうしよう、銃めり込んでた腕ちょー痛い。
「…なまえ、大丈夫か?」
「…キラー、わたしさぁ、」
「なんだ」
「ちゃんとした得物持とうかな。…刀とかかっこいいよね」
「…なまえ、刀も鉄だぞ…」
あちらこちらに敵が転がる甲板から見上げた空はきれいな青で、白いカモメが自由気ままに飛んでいる。
わたしの呟きはあの青い空には届くまい。
キラーが叩き落としちゃったから。
end
キラーっていいお兄さんな気がします。
…危険が服着てるけど。
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