気の早い千里くん
◇高校生。
千歳がなんか怒ってる。
さーてなにをしでかしたんだ自分。
考えるものの、精々千歳の珍しい短パン姿に爆笑したことくらいしか思い当たらない。
だけど千歳はそんなことで怒るようなちっちゃい男ではない。
見た目どおりのおっきい器だとわたしは思っている。のに、さっきから名前を呼んでもシカトしてるんだから、やっぱりそれが原因なんだろうか。
なんだよ、千歳め。わたしの信頼を裏切るというのか。
「千歳ー…、わたしなにかした?」
「…別に、なんもなか」
お、やっと反応してくれたよ。でもやっぱ不機嫌が隠しきれてないよ。視力低い方の目つきがだいぶ険しい気がする。
「…言ってくんなきゃわかんないよ」
「…今朝んこつ、覚えてなかと?」
今朝?はて、なんかあったっけか。頭の中の巻き戻しボタンを押してみる。
今朝は確か…朝寝坊して、朝練に遅れて白石にねちねちお説教されて、その後千歳と話しながら教室に…。
「あ」
「思い出した?」
「や、だってあれは…、」
「俺は本気ばい」
「えええー…」
なるほど、思い出した。ていうか、千歳は怒ってたわけじゃないのか。よかった。もしかして別れ話とかになっちゃうのかなーって思ってたりしたんだ。実は。
「なんで千歳じゃダメなのさ」
「今朝も言った通りばい。結婚したらどげんすっと?なまえも千歳なまえになるんよ?」
「だっ、だからわたしらまだ高校生!」
「そんなもん関係なか。実質、もう年齢的には結婚オッケー」
「えええ」
こいつ、本気か!いや、本人が本気って言ってるんだから本気なんだろうけどもさ。
「これも花嫁修行ったい。俺はなまえのために鬼になる!」
ならなくていいよそんなもん。いつもの優しい千歳が好きだよわたしは。
恥ずかしいから絶対言わないけど。
「もう、千里なんか知らん!」
「え!ちょ!今…、」
ぷいっと回れ右してみる。あああ恥ずかしい!名前呼んだだけでこんなに顔が熱いとか、どうした自分。
拗ねたフリをするわたしを後ろからぎゅーってしてくる千歳は、きっと喜色満面という言葉がぴったりなカオしてるんだろうと思った。
End
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