裏切りの謙也


もうすぐ体育大会がある。

別にそんなイベント化しなくていいじゃん。普通に体育やってればいいじゃんというわたしの思いなど露知らず、今日のホームルームはその体育大会の出場競技決め。

出場する種目は、一人3つ。2つはもうクラス全員参加のものだから、実質自分で決められるのは一種目。

わたしは黒板につらつらと書き並べられていく種目のたった一点を見つめる。

「あー、地球滅亡しろ」

「なんやと」

「明日から地獄始まんねん。わたしMやないから嫌やねん」

「明日からて…、もしかして練習んことか?」

「そ」

「そんなことで地球滅亡してたまるかい」

「ちくしょう、謙也なんかにわたしのこの絶壁が分かってたまるか」

「だいたい自分、体育悪くないやん」

「あんなぁ、できるんと嫌いなんは違うんやで」

「できひんくて嫌いな子に刺されんで」

そんな他愛もない話をしながら、わたしは戦いの準備をしていた。
これから始まる、『100m走の陣』に向けて。

「で、なまえはなにに出るん?」

「決まっとるやろ。100m」

「そうやと思ったわ」

なら聞くな。

そろそろ委員長と副委員長が全ての種目を書き終わる。

「せやけど、100mは人気高いしなぁ。なんなら俺が書いて来たろか?」

「え?」

ガタン。少し持ち上げていた腰が落ちる。

「スピードスターやからな!一番のりで書いたるで」

確かに、謙也に頼めばきっと本当に一番のりで書いてくれるだろう。そしたら『100m走の陣』に赴かなくて済むし、100m走はゲットできる。所謂一石二鳥。そう思ってわたしは謙也に一任した。


「な、な、な…!」

「ほなら、200mリレーはみょうじと忍足で決定やな」

「ちょお先生待って!わたし100m、」

「今更変えられへんもん。書くとこ間違えた自分を呪うんやな」

それから二週間の練習の間、わたしは謙也の尻にリレーバトンを突き刺し続けた。

当日は一等だった。



End
謙也は確信犯。




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