忍足に誘われて忍足に出逢う


テニスの試合に誘われた。

最初はあんまり乗り気じゃなかったのだけど、女テニの部長としてテニスの研究にはいいかと思い、ついでに我が氷帝学園でなんだか人気があるらしい忍足に、何故か来てくれと頭まで下げられたという優越感もあり、わたしは今日、この会場に来ている。

「Aコートって何処」

ノートと筆入れ、あとはお財布とかタオルの入ったカバンを肩にかけ直し、きょろきょろと辺りを見回す。

広い会場の中には、ちらほらと知らない学生服を着た人たちがいて、ああ今日の相手校の学校の人だろうかと考える。

暑いのにご苦労なことだ。

「おーい、忍足ー!忍足何処だバカヤロー」

「誰がバカやねん!」

「え?」

返事なんて期待していなかった呼びかけに返事が返って来た。

しかしそれはわたしの探している人物からのものではない。

しかもよりによって、返事を返したのはどうやら目の前に居るガラの悪そうな人のようだ。だって金髪だし。

「えええどちら様デスカ」

たじたじと後ずさるわたし。不良怖い。

「え、俺知らんヤツにバカにされたん?俺ってどない評判やねん…」

待って待って、だからどちら様ですか!?というかわたしには知らない人をバカにできるなんて能力はない。断じて。あああこうなったのも忍足のせいだ!今度ハーゲンダッツたかってやるっ。とにかく落ち着くんだわたし!

「あ、あの…多分聞き違いです!わたしは氷帝学園の忍足って人を探してまして…」

「氷帝の忍足?…あーあ!ユーシな!それなら納得や!」

なんだかあっさり納得してもらえた。わたしやれば出来る子!
とりあえず誤解は解けたし、それじゃあこれでとその場を離れようとした時だった。

「なんや、謙也とおったんかみょうじ」

「え、もしかしてこの子がみょうじさん…?!」

「え?え、まぁ…一応」

一応ってなんだよとか自分自身にツッコミを入れてみる。

なんでこの不良さんはわたしの名前を知ってる風なんだろうか。さっきとは打って変わって立場逆転という感じだ。

説明してよと視線で忍足に訴えてみる。

「ああ、こいつは俺のイトコでな、忍足 謙也っちゅーねん」

あ、だから『忍足バカヤロウ』に反応したのか。なるほど納得。

「えーと、今更ですが初めまして。みょうじ なまえです」

「おお!俺は…って、もうええやんな。そーかそーか、確かにユーシの言う通りの子やなあ」

「『言う通りの子』ってなに」

わたしの知らないところで、しかも知らない人になにを吹き込んだんだと忍足を睨む。次第によってはハーゲンダッツが2個に増えるぞ。

「そんな睨まんといてや。別に悪口言うたわけとちゃう」

「いやそういう問題じゃないからね。えーと、忍足のイトコさん、こいつが何言ったのか知りませんが、あまり気にしないで下さい本気で」

「いやいや、ほんまに悪口とかとちゃうねんで?」

「せやなあ。俺が聞いたんは『女子テニスの部長が、見た目かわええ』っちゅーことだけやし」

「は、なにそれ」

「自分、少しは照れたりとかせんのんか」

「いや、それ以前になんでそんな話になるのかが不明で」

「こいつがな、テニスの強い女の子って、だいたい見た目もごっついもんやと思い込んでてん。せやから、そんなことないっちゅーんを教えてやりたかったんや」

「…はあ」

なんじゃそりゃ。そんなことを教えてあげるためにわたしを試合に呼んだのかこの伊達眼鏡は。

…しかしそう考えてみると、『言う通りの子』だと言ってくれたこの忍足(イトコ)さんは…そう思ってくれたということになるのか。あ、なんか今更恥ずかしい。

「ユーシの言う通り、氷帝の女子部長さんはかわええんやなあ」

ずきゅーん!ななななんか胸…いや、心臓に突き刺さったああ!

「忍足、ハーゲンダッツは1個にしといてあげる」

「は?」



End




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