仗助くんとオオカミ少女


夜、自分の部屋で康一から借りた漫画を読んでいると、ふいに窓を叩く音が響いた。

おれはそんなに外とか気にする方じゃあないし、夜っつってもまだそんなに遅い時間じゃあない。だからまだカーテンは開きっぱなしで、そっちの方を見ればすぐに音の正体は分かった。

窓の外ですげー満面の笑みを浮かべてひらひら手を振ってるそいつは、まぁなんつーかその…おれの恋人、ってやつで。

おれは彼女が突然現れたことだとか、なんか頭の上の方が動物の耳みたいになってるパーカーのフードだとか。色々驚いちゃあいるけれど、それでもやっぱり会えたことが嬉しくて、すぐに漫画を横に置いて窓を開いた。

「がおー!こんばんは、仗助くん」

「…おう。てか、なんだよそのカッコ。犬…?」

「犬じゃないよ、オオカミ!ほら!」

なまえ曰くオオカミの耳を模したらしいフードのその部分を撮んで見せる姿が本気でかわいすぎて、おれはほっぺたの筋肉が機能しなくなるんじゃあねえかと思いながら必死に平静を装う。

「ほらって言われてもよぉ〜…違い分かんねーって」

「えー…、せっかくびっくりさせようと思って買ったのになぁ。反応がいまいち」

窓の縁に腕を乗せ、そこに顎を預けた彼女は口唇くちをへの字に曲げて不貞腐れ顔。さっきまで摘まんでいた耳の部分も少し垂れ下がっていて、まるで落ち込んだ犬みたいだ。

「いや、もちろんびっくりはしてんだぜ?でもやっぱなまえに会えて嬉しいって方が勝っちまってさ」

「え…そ、そうなの?ほんとに?」

「当たり前だろ〜。しかもワンコのコスプレまでしてるしよぉ〜」

「…もう、ワンコじゃないって言ってるのに」

口では文句を言いながら、フードの上から本当に犬を撫で繰り回すみたいに撫でまくるおれの手を払おうとはしない。

目を細めて気持ちよさそーにしてる表情は、ちょっと猫っぽい。

「もー、かわいすぎでしょ。うちの子にしてぇ〜!」

「わぁっ!?ちょ、苦しいよ仗助くん…!あとわたし外にいるから恥ずかしい…!」

「あ、ワリィ。とりあえず玄関まわって家入れよ」

「いいの?こんな時間にお邪魔しちゃって…」

「大丈夫だって。お袋は学校の集まりでいねーし。だいいち、そんなトコじゃあイタズラもできないだろ」

「イタズラ…?あ、気付いてたの、ハロウィンだって」

「そりゃあそのカッコみたら流石に思い出すっての」

「あはは、それもそうか。じゃあ、お邪魔します」

「おう」

なまえが玄関の方へ歩いていくのを見送って、おれは窓とカーテンを閉める。
玄関へ行く前に一度リビングを経由し、テーブルに置いてある個別包装のちっこい菓子を手に持って自称モンスターを出迎えた。

イタズラをするのがどっちか、なんてのは言わなかったわけだけれど、それっておれ、もしかしてちょっと意地悪?なーんて。思ったり、あんまし思わなかったり。




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