ミイラロシー
「…ロシー、ハロウィンにはまだ早いよ…?」
ロシーの同居人、ローくんから「病院に行ってほしい」と連絡を受けた時は、本当に何事かと思った。
ローくんから詳しく話を聞くと、またロシーがドジをやらかして病院に搬送されたはいいけれど、ローくんの歳では面会できないから必要な物を持って行ってほしい。
そんな趣旨だった。
本当にローくんはしっかりしている。
そして今、わたしは件のロシーが入院している病室へとやって来たわけだけれど、想像どおりと言いますか。見知った彼はあちこちぐるぐるの包帯まみれで、まるでミイラのようだった。
「いいんだよ、おれは時代を先取りしてんの」
「それじゃあロシーはわたしたちより約1カ月も先を生きているんだね。1年が早いね」
「おい、人をじいさんみたく言うなよ…」
「家の廊下で転んでそのまま階段から落っこちて壁に激突した挙句額縁を頭でキャッチしちゃったのにそれだけ元気なら若いよ」
ミイラロシーが横たわっているベッドの空いているスペースへ、ローくんから預かってきた荷物を置く。
昔からドジを重ねて鍛えられた身体はまぁそんなに心配はしていなかったけれど、頭に額縁が落ちてきて気を失ったとローくんから聞いていたわたしは、流石にちょっと心配していた。
そのせいで一日とはいえ入院することになったわけだし。
…でも、とりあえず元気そうで良かった。
「…なぁ、もしかして…怒ってる…?」
「怒ってません」
「いやいやいや、怒ってるだろそれ!お前案外顔に出るタイプだって知ってる?!」
「…別に、本当に怒ってるわけじゃないよ」
怒ってるわけじゃないっていうのは、本当。
そりゃあ、ローくんに心配かけてることや自分の身体をもっと大事にしなさいよってことに対してはちょっとムカついてはいるけれど。
今、わたしの中で一番大きな感情は…怒り、とは違う。
「ねえロシー、一緒に暮らしたいって言ったら…嫌?」
「…は、えっ?!い、一緒にって…おま、」
「もちろん、ローくんと三人で。家賃とか食費とかわたしも出すし、家事もする。…どう?」
「そういう問題じゃなくてだな…!」
「返事はすぐにとは言わない。ゆっくり考えてみてください。…じゃあ、また明日迎えに来るね」
「あ、おい!」
背中にロシーの声を聞きながら、わたしは速足で病院の廊下を歩く。
…我ながら、結構すごいことを言った気がする。
でもね、やっぱりあれは嘘。なんて言う気はないよ。
不安そうにしているローくんも、怪我して包帯ぐるぐるなロシーも。もう見たくないから。
今年のハロウィン、ミイラ男なんかじゃなくて、最高に彼がかっこいい仮装を考えよう。
火照った顔を秋のにおいがし始めた風に撫でられながら、わたしはそんなことをぼんやりと考えた。
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