キッドくんに憧れる


昔からキッドくんはやんちゃだった。
男の子らしいといえばらしいけれど、いつも何処かを怪我している。そんな感じ。
それは草や木で切ったものだったり、転んだものだったり。中には、喧嘩によるものも多々あった。

でも、怪我をしていても彼は元気だった。

わたしは、怪我については痛そうだなぁと思っていたけれど、その強さに憧れていた。

…まぁ、それは幼少の頃の話で。

やんちゃ坊主は、そのまま大きくなっていた。

「オラァッ!…けっ、弱ぇーくせに喧嘩売りやがって。身の程を知りやがれ」

「(ひぇえ…)」

倒れた他校の男子生徒を足で一蹴りしたキッドくんは、言葉の割りに随分と楽しそうな顔をしている。とても凶悪な顔だ。

帰路の途中で喧嘩の真っ最中を目撃してしまったわたしは、怖くて足がすくんでしまい、電柱の陰からその騒ぎが治まるのを待っていた。

下手に喧嘩している側を通ったりしたらとばっちりがきそうだったから。

かくして見事キッドくんがほぼ無傷の状態で勝利したわけだけれど、わたしの足は未だに動こうとしてくれない。

とりあえず、キッドくんが離れるのを待とう。
鞄を両手で抱きしめるようにして息を吐く。

「おい、そこでなにやってんだ?」

「ひぇっ!?」

「…なんだ、なまえか」

キッドくんの家とは逆側の道にいたわたしは、まさか彼がこっち側に来るなんて思ってもいなくて、かけられた声に思わず情けない声をあげてしまった。

「ご、ごめんなさい…!盗み見とかそういうんじゃなくて、喧嘩してるのが見えて…こ、怖くて、それであの、」

冷静に考えれば、わたしは別に何も謝るようなことはしていないし、そもそもキッドくんに責め立てられたわけでもない。
なのに何故かわたしは言い訳じみた意味不明な言葉を口走り、必死にキッドくんへ謝っていた。

「なんでお前が謝ってんだよ。こっちこそ悪かったな」

「え、」

「怖かったんだろ」

「わぁあっ?!」

鞄を抱きしめたまま逃げ腰になっていたわたしの頭に、キッドくんの大きな手が触れる。
かと思えば、思いっきり髪をかき混ぜられた。
あまりの乱暴さに若干首までがくがく動く。

「ちょ、キッドく、やーめーて〜っ」

「ははは!ひでー頭!」

「だ、誰のせいですか…もう!」

ぐしゃぐしゃにされてしまった髪を慌てて手で直していると、キッドくんは楽しそうに笑いながらくるりと家の方へ向きを変えた。

「おら、帰んぞ」

さっさと歩き出すのだろうとその背中を見ていると、キッドくんは少しだけ振り返り、そう言った。

少し、爽やかな笑顔に見えた。

「…うん!」

ちょっと怖くて、喧嘩っ早くて。そんな人なのに、わたしはどうして昔から、こんなに彼に憧れるのかなぁ。

足が動かなかったことなんか忘れて、わたしは彼の隣に並んで歩き出した。




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