親友という存在


「…はい、分かりました。…ふふっ、大丈夫ですよ。それじゃあ、お仕事頑張ってください」

午後も15時を迎えた頃、この家の電話が何処かからの着信を電子音でもって僕たちに知らせた。
僕や金髪が電話をとるわけにはいかないので、なまえさんにその対応を任せ、僕たちは口を閉じる。

電話の相手はどうやら赤髪らしいということは、彼女の弾む声色と言葉ですぐに分かった。

恐らく仕事の合間、休憩時間にでもかけてきたのだろうその電話はあまり長いものではなく、簡単に今の様子と、ひとつふたつ何かを伝えた程度。
なまえさんは少しだけ名残惜しそうな表情をしながらも、そっと受話器を置く。

「典くん、典明くん。朗報ですよ!」

「朗報?」

くるりと僕たちの方へ身体を向けた彼女は、胸の前で手を合わせ、嬉しそうに笑って言った。
彼女へと聞き返す金髪の表情も、その笑顔につられるように少し柔らかい。

「今晩、承太郎さんが来てくださるそうです」

「…承太郎が、」

「はい。連絡がとれて、相談をしたら直接来て頂けることになったそうで」

この世界に来て、その名前を何度か聞いた。
『承太郎』。
僕と同じ、幽波紋が視え、使うことができ、僕の…いや、赤髪の、親友。

僕は、今まで一度も同じ能力を持つ人間と出会ったことがない。
何処にいても、誰といても。

僕だけが違っていた。僕だけが、異質だった。

一生誰とも本当の意味で分かり合うことなんてできないんじゃあないか。
そんな諦めから、僕は自分以外の人間と距離をとって生きてきた。

それはきっと僕だけじゃなく、赤髪も、目の前にいる金髪も同じだったんじゃあないだろうか。

赤髪は幽波紋が視えもしない彼女と結婚し、幸せそうに笑っている。
それは決して作り笑いなんかじゃあないし、自分の心を偽っているとも思えない。

金髪も、戸惑ってはいるようだが、それでも彼女と距離を置くような素振りは見せない。
それどころか、歩み寄ろうとしている。

そりゃあ、僕だってなまえさんのことを拒んだりはしていない。
彼女は知ったうえで僕を…僕たちを拒まないから。受け入れてくれていることが明白だからだと、思う。

でも、それでも僕は…一歩踏み出すことを、躊躇している。

僕と、赤髪や金髪の最も大きな違い。
それは、一人でも自分と同じ価値観を持った人間と出会えているかどうか。

「(早く会ってみたい…。『承太郎』に)」

小刻みに震える手を、僕は強く握りしめた。

緊張したのなんて、いったいいつぶりだろう。

冷えきって、何処か深い場所に沈み込んでいた感情が、全身を熱くするほど熱を吹き返していく。そんな感覚。




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