承太郎とクリスマスの雪道
言葉にするとぎゅむぎゅむ、なんていうような、普段では鳴らない不思議な足音を鳴らして歩く。
はぁ、と吐き出した息は足元に薄く積もった雪と同じくらい真っ白だ。
「今年はホワイトクリスマスってやつだね」
「もう既に止んでるがな」
「また夜になったら降るんじゃあないかな?」
「それはそれで危ないだろ」
お前が。と言う言葉を言外に含んだそれに、「じゃあ雪が降ったら帰らなくてもいい?」なんて大胆なセリフが思い浮かんだ。
でもそんなこと恥ずかしくて言えるわけがなくて、結局わたしは「それもそうだね」と当たり障りのない返事をする。
承太郎と二人、手を繋いで歩く道は彼の家へと向かう見慣れたはずの道。
けれど、薄く積もった雪と、クリスマス特有の飾り付けだとか、すれ違う人々の纏う雰囲気だとか。そういった色々な要素が絡み合って、まるで見慣れない場所のように感じる。
そもそも、普段あまり手を繋がない承太郎と手を繋いで歩いているから、こんな不思議なドキドキが生じているのかもしれない。
「なんか緊張しちゃうなぁ。クリスマスにお家へお邪魔するなんて」
「初めて来るわけじゃあねえんだ。別に緊張することもないだろ」
「ええー、クリスマスに行くのは初めてだもん。特別だよ、クリスマスは」
恋人同士のデートや家族でのお祝いは、クリスマスの過ごし方として定番中の定番だと思う。
でも今回は、恋人の家族とお祝いをする。という、どちらでもなく、どちらでもあるような。そんないつもと違うクリスマスになる。
承太郎は自分の家だからあまり気にしないかもしれないけれど、わたしからしたら緊張せずにはいられないというものだ。
そんなわたしの抗議を聞いているのかいないのか、承太郎は一度何かを考えるように空を見て、それからわたしへと言った。
「そんなに言うなら、このまま二人でトンズラしちまうか?」
まさかそんなことを言ってくるだなんて思ってもいなかったわたしは、思わず目を丸くして彼の顔を見上げる。
何処か挑発するかのような不敵な笑みのせいで、本気で言っているのかどうなのかは分からなかった。
「…そ、れは…誘ってくれたホリィさんに申し訳ないから…やめとく」
「それなら仕方ねえな」
自分の顔が赤くなっているのが嫌でも分かってしまい、マフラーへ口元までを埋めるようにして顔を逸らしたわたしの頭上から、笑みを含んだ柔らかい声が下りてくる。
なんだか、まんまと言いくるめられたような気がして微妙に複雑な気持ちになった。
だけど足元の白いそれが、実は雪じゃあなくて甘い砂糖やクリームでできているんじゃあないかと思う程、ふわふわした甘い感覚に包まれて。
心も顔の筋肉も蕩けてしまいそう。
そんなことがぼんやり浮かんで、幸せな時間の中に溶けて消えた。
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