長谷部さんと夏の本丸


「暑い…」

思わず漏れた自分の言葉で、余計に暑さが増したような気がする。
それと同時に、政府への報告のために作成していた資料作りに費やしていた集中力がぷつりと切れたのが分かった。

少し休憩しようかと考えたその時、静かに襖が開き、近侍の長谷部さんが盆を手に部屋へ足を踏み入れた。

「主、冷えた水を用意いたしました。どうぞ」

「あ、長谷部さん…ありがとうございます。助かります」

「いえ、暑さで体調を崩されては大変です。無理なさらず、一度休憩なさってはいかがでしょう」

「はい、そうします」

丁度休憩しようとしていたところだったわたしは、長谷部さんの提案に素直に頷き、差し出してくれたコップを受け取る。

ガラス越しに伝わるひんやりとした水の温度が気持ち良い。
コップに口を付けて一口喉へ流せば、自分が思っていたよりも身体は水分を欲しがっていたようで。
コップの中身はあっという間に空になってしまった。

「……はぁー…生き返る〜…」

「少し汗をかいていますね。身体を冷やすといけませんから、この手拭を使ってください」

コップと交代で差し出された手拭を受け取りながら、流石準備がいいなぁと感心する。

「色々とありがとうございます。…そういえば、長谷部さんは暑くないんですか?きっちり服着込んでますけど…」

「俺はそうでもないですね。刀は高熱で打たれるものですから、暑さにも強いのかもしれません」

「そういうものですか…。確かに、みなさんが汗をたくさんかいているところ、あまり見ていない気がします」

「突然の冷たさや熱さには驚きますが、こういった徐々に移ろう変化は、俺たちにはあまり影響しないようです」

「…やっぱり、わたしたちとは少し違うんですねぇ」

「…そうですね」

ぽつりと呟いた言葉に、長谷部さんは少しだけ…ほんの一瞬だけ、寂しそうな顔をしているように見えた。

冷たい水の入っていたコップの側面を、一筋水滴が滑り落ちていった。




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