さようなら、きっとまた…
「夢のような時間でした」
典明くんは、泣き笑いみたいな…何処か胸が切なくなるような笑顔でわたしたちにそう言ってくれました。
典明くんの言葉に典くんも静かに頷いて、笑って言ってくれたんです。
「ありがとう」と。…そして、「僕とも出会ってくれることを祈っています」と…。
初めて見せてくれたその笑顔はとても綺麗で、大人びていて。
だけどやっぱり切なくて…わたしは、何も言えずにただ小さく頷くことしかできませんでした。
二人が煙のように消えてしまった後、典明さんも承太郎さんも…暫く黙ったままでした。
突然現れ、たった一日一緒に過ごしただけ。
お話して、お買い物に行って、ご飯を作る時には手伝ってくれて…一緒に食べて。
たった、それだけ…。
なのに、煙のように消えてしまった二人のことを想うとこんなに苦しいのは…どうしてなんだろう。
…それはやっぱり、二人が『花京院 典明』さんだったから、なのかなぁ。
それも、わたしが知らない、たくさんたくさん大変な思いをしているのであろう年頃の…。
「さて…ありがとう、承太郎。おかげで解決したよ。助かった」
「別段おれは何もしてねぇだろ。ただメシ食わせてもらっただけだ」
「そんなことないさ。キミにしては随分沢山喋ってくれたじゃあないか」
「……あれで、良かったのか」
「ああ。…だからこそ、彼らは帰ったんだろう」
「そうか…」
典明さんと承太郎さんは、きっとあの二人のことをなんとなく分かっていたのでしょう。
彼らがどういう存在だったのか。そして、何故消えて行ったのか。
承太郎さんの言うように、何も特別なことはなかったように思います。
四人でご飯を食べて、承太郎さんとたくさんお話をしていました。
ほとんどが、承太郎さんに対する質問でしたが。
その一つ一つに、短いながらもしっかりと答えていく承太郎さん。緊張した様子ながらも真剣な表情で話を聞く典くんと、嬉しそうな…時々安心したような表情で笑う典明くん。
とても穏やかな時間だったと思います。
けれどそれこそが、あの二人にとって“特別”なことだったのでしょう。
「それじゃあ、おれは行くぜ。世話んなったな」
「こちらの台詞だよ。今度はゆっくりできる時にまた来てくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「コートお持ちしますね」
承太郎さんが立ち上がったところで、お預かりしていたコートを取りに行く。
とても長いうえに白いコートなので、床に擦ってしまわないように気を付けてハンガーから外して持って行くと、承太郎さんはお礼を言って受け取ってくれました。
そしてコートを受け取る時、わたしに言うのです。
「今のあいつにはあんたがいる。それだけでも特別なことなんだ。…これからも、支えてやってくれ」
「承太郎さん…」
「よろしく頼むぜ」
「も、もちろん!もちろんですっ!」
自分でも思ったより随分力の入ってしまった言葉に、承太郎さんが小さく笑ったような気がしました。
それと同時に、わたしの隣に立っている典明さんが「参ったな…」と呟くのが聞こえたけれど、わたしは恥ずかしくてその顔を見ることができませんでした。
だけど、顔は下げたくなかった。
なんだか、わたしの言葉の意味が。意志が。薄れてしまうような気がしたから。
「…僕は、なまえに出会えて本当に幸せだと、心から思ってるよ」
承太郎さんを見送った後、典明さんが静かな声でそう言ってくれました。
わたしはその言葉だけでとてもとても幸せです。
…だけど、わたしは思うのです。
「わたしだけじゃないです。…典明さんの幸せは、わたしだけじゃない。承太郎さんや、幽波紋使いの仲間の方と出会えたこと、全部です」
「…そうだね。そのとおりだ」
典明くんと典くんが今日、わたしに見せてくれた色々な顔を思い浮かべてみる。
最初は警戒されていました。でも、少しずつ歩み寄ろうとしてくれた。
典明さんを見て、『花京院 典明がこんな風になるなんて信じられない』と言い、それでもその経緯を知ろうとしてくれた。
そして、承太郎さんを見た時の二人の表情。
悔しいけれど、幽波紋使いではないわたしでは見られなかった表情が、そこにはあった。
さっき、典明さんはあの二人が『帰った』と言っていたけれど、彼らは今後どんな風になっていくのでしょう。
今目の前にいる典明さんは、いくつもの幸せによって形成されている。
彼らにも、同じように訪れるでしょうか。
わたしたちが噛みしめている『幸せ』を、当たり前に受け取れる日が…。
繋いだ手の温もりが、『幸せ』であると感じられる日が…−。
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