露伴の恋人は努力している
『可愛い』とは何か。
鏡の前でわたしは、妙に落ち着いた気分でなにそれ哲学?みたいなことを考え出した。
鏡の周りには色々な化粧道具が散乱していて、わたしの顔はなんというか…ケバい。ていうかヤバい。
いつぞやに観た古い映画に出てくる、レディースみたいな。プロレスラーの方ですか?みたいな。
おかしい。
少しでも可愛く見えるようにしたくてあれやこれや試行錯誤していたはずなのに、いつからこんなことになってしまったのか。
確か、あの辺までは良かったはずなんだ。あそこで止めておけば…むしろああしていれば…。
後悔しても、現実には『戻る』ボタンは存在しない。
頭を抱えたい気持ちではあるけれど、そんな余裕はない。
刻一刻と時間は迫っているのだ。
貴重なデートの待ち合わせに遅れたくはないし、遅れようものなら彼…露伴にどんなお小言を言われることか。…まぁ実はわたし、露伴の拗ねた顔、結構好きなんだけど。
だがしかし。デートは円満に、且つ円滑であるに越したことはない。
わたしは急いで洗面台へ行き、すべての化粧をきれいさっぱり落とす。
いやもう本当にさっぱりした。窒息寸前だった肌が無事に呼吸を再開した感じ。
顔の水気を充分に拭き取って、もう一度鏡の前へ。
今度はいつもどおりの無難なメイク。
失敗はしないだろうけれど、いつもどおり。
ブラウスとカーディガン、春らしい柔らかい色の少し丈が短めのスカート。
せっかくおニューで揃えたんだけどなぁ。
化粧を終えて、最後に髪をちょっと整える。
片付けは適当に済ませて、鞄を持って。
誕生日に露伴から貰った腕時計を巻いたら、さぁ、出かけよう。
化粧はいつもどおりで変わり映えしないけれど、服については何か言ってくれるかな?
「似合ってるじゃあないか」
「え、ほんと?!」
「ま、ぼくが選んだ時計だからな。当たり前か」
「…ああ、そっち…」
一瞬期待した分がくりと肩が落ちてしまうけれど、まぁなんというか、露伴らしい。なんて思えてしまって。
思わず苦笑い。
いつか絶対に『可愛い』って言わせてみせる。
相手は素直じゃない露伴だから相当ハードルは高いし、いつか「見た目だけで好きになったわけじゃあない」と言ってくれたけれど。
でも、やっぱり好きな人には、少しでも可愛いと思われたい。
だからわたしは、これからも努力し続けるだろう。
あなたの隣を歩いても、恥ずかしくないように。
自然に繋がれたこの手が、ずっとそうしてくれるように。
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