ディオは幸せを甘受できない
◇モチーフはマッチ売りの少女。
「ディオ、起きて」
声に導かれるように意識が浮上する感覚。
ハッと目を開けると、女が私を見て「おはよう」と笑った。
「どうしたの?難しい顔して」
「いや…、」
小首を傾げるその女は、私の妻だ。
この私を敬称なく呼ぶ者など限られている。
頭に靄がかかり、未だ夢の中にでもいるかのようだ。
全ての事柄に現実味がない。
鏡に映る見間違うはずもない自身の顔にさえ。
それでも私に向けられる妻の声や表情は愛しいと思ったし、身体が勝手に身支度を進めていく。
平凡な家庭。平凡な日常。
妻がいて、息子がいる。
私とは違い、黒い髪の男児。
まだ言葉も発せぬほど小さなその身体を妻から託され、この腕に抱く。
それなりの重みがあり、それなりの体温があった。
そこで、ようやく。
ようやっと、我に返る。
私はもう、人の体温など感じないはずなのだと。
窓から差し込む朝の陽も。自身の首をぐるりと回る傷跡が映らぬ鏡も。両腕に感じた温もりも。
全て。全てまやかしだ。
強く握った掌が、ジュッと音を立てて焼ける。
意識ははっきりとしたものになり、暗い室内に漂う皮膚の焼けた臭いが鼻につく。
既に回復を始めている掌に、へし折れ、完全に火の消えたマッチ棒だけが残っていた。
幽波紋攻撃だったのか。白昼夢とでもいうものか。
「…どちらにしても、下らんな」
ひとつ鼻で笑い、ゴミを何処かへと放り投げた。
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