露伴にフライングクリスマスプレゼント


空が明るくなり始めた頃、ぼくはようやく徹夜していたことに気がついた。
巻頭カラー用の数枚だけを先に仕上げるつもりだったのに、いったい何時間机に向かっていたのだろうか。

すっかり出来上がった原稿を前に、自分は夢中になるとどっぷりのめり込むタイプなのだということを再認した。

ひとつ伸びをすると、ずっと同じような姿勢でいたせいだろう。筋が張っている感覚があった。

さて、このまま布団に入って昼頃まで眠るのもいいが…せっかくだ。身体をほぐしがてら朝方の町でも見に行こうか。普段は人や車で賑わっている町も、今は別世界のようにしん、と静まりかえっていて、それはそれで新鮮かもしれない。

そう思い至ったぼくは、厚手のコートを羽織り、スケッチブックと簡単な筆記用具だけが入ったペンケースを手に玄関へ向かう。

「露伴、出かけるの?」

靴を履きながら、思いの外寒いな、などと考えていると、頭上から小さな声が聞こえてきた。
見上げると、二階の階段横から眠そうに目をこすりながらこちらを見下ろすなまえの姿。
被るように毛布を肩にかけ、それでも寒いようでぎゅっと毛布の両端を握り身体を覆い隠している。

「…少し外を歩いて来る。1時間もすれば戻るだろうから、キミはもう少し寝てるといい。まだ起きるには早い時間だぞ」

「んん…、分かった…。あ、」

ちょっと待ってて。
言うや否や、彼女は踵を返し、寝室へと戻っていった。

それからすぐに何かを手に、パタパタとスリッパを鳴らして階段を下りてきた。
被ったままの毛布を足に引っかけやしないかと心配になる。

「手、出して。両手」

「なんだ?」

「いいからいいから」

毛布の隙間から伸びてきたなまえの手に引っ張られ、ぼくは商売道具である手をあっさりと差し出してしまった。
寝起きだからか、未だに毛布へ包まっているからか。なまえの手はとても温かくて、まるで子供みたいだと思わず笑ってしまいそうになる。

「今朝は一段と冷えるって、昨日天気予報で言ってたの。本当はクリスマスにと思ってたんだけど…使ってもらえる時に使ってもらわなくちゃ意味ないから」

「手袋、」

「うん。露伴にとって手は第二の心臓みたいなものでしょ。だから一番に思いついたプレゼントがこれだったんだぁ」

ぼくの手にすっぽりとはめられた黒の手袋。革製の、内側にウールだろうか?柔らかく暖かい。
手袋くらいぼくだって持っているとか、第二の心臓とかいう言い回しはどうなんだとか。
余計なことがいくつか脳裏に浮かんだが、何故かなまえの方がプレゼントを貰った子供のように笑うから。

「…ああ、暖かいよ。ありがとう」

「へへっ、どういたしまして〜。気をつけて行ってらっしゃい」

さっきなまえには1時間と言ったが、もっと早くに帰ってこよう。
そして同じ毛布に包まって、彼女の温度を感じながら半日を潰すのも悪くない。

家を出る前からそんなことを考えて、ぼくは早朝の町へ踏み出した。




- 43/68 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ