キモノとかいう衣装をキャプテンに披露する
「キモノ?」
「はい。この国では年明けにこれを着るのが伝統なんです」
「へぇ…なんだかかわいいですね」
「ええ。今、半日レンタルというのをやっておりまして…よろしければいかがですか?御嬢さんならとても似合うと思いますよ」
「そ、そうですか…?!」
なーんていうお姉さんの巧みな誘惑と、キモノなる綺麗な衣装にまんまと乗せられ、わたしはキャプテンに「半日だけ!半日だけお願いしますっ!」と土下座までしていざキモノ体験をすることになった。
勝手にハートのシンボルでもあるツナギを脱ぎ捨てようものなら、きっとわたしは身ぐるみ剥がされて船を下ろされるに違いない。
だから土下座するわたしをキャプテンに養豚場の豚を見るような目で見られたとしても、直々に許可を頂けるのなら安いものだ。
わたし、メンタル強すぎじゃない?
もうこれ何処の海賊に見せても恥ずかしくないでしょ。ね、キャプテンっ!
キャプテンの公認を勝ち取ったことで一人楽しすぎるわたしは、るんるん気分で着付けをしてもらいにお店へと出戻った。
お店では好きな柄のキモノを選ばせてくれて、着付けだけじゃなくお化粧やら髪のセットやらまで色々とやってくれるらしい。
「うわぁ…すごーい…」
「気に入って頂けました?」
「はい!なんだか自分じゃないみたい。ありがとうございます」
姿見の前でくるくる回って全身を眺める。
初めて着るキモノはやっぱり綺麗で、いつもは全然しない化粧やセットされた髪にテンションは右肩上がり。
一つ難点を上げるとすれば、いつもより数倍おしとやかに歩かないと着崩れるということくらい。
夕方には返しに来ますと伝え、わたしは来た時よりも更にるんるんで船へ戻った。
「うおーい、ただいまーっ!」
「ん、なんだ…?って、まさかなまえ、か…?!」
「ペンギンただいまー。どうどう?」
「いや…、マジで一瞬誰か分かんなかったわ。すげーな」
「だよね!わたしも鏡見て誰だこのかわいい子はって思ったもん」
「自分で言うか」
「あははっ」
ペンギンと一緒にわーわーしてたら、いつの間にかシャチやベポたちも集まって、皆してすげーやべーと頭の悪い褒め言葉を言ってくれた。
おい、「馬子にも衣装」って言ったのだーれ?それ褒め言葉じゃないからね。え、ベポ?よし許す。
「随分と騒がしいな」
「わーいキャプテーン!見て下さいこれ!どうですかどうですかっ?」
騒ぎを聞きつけたんだかたまたま通りかかったんだかはたまたわたしを待っててくれていたのかもしれないキャプテンがやって来た。
わたしは相変わらずのテンションでキャプテンの前に躍り出て、くるりとキモノ姿のわたしを披露する。
「…似合わねえな」
「え゛っ」
ピシッ、と何かに亀裂が入ったような感じがした。
わたしだけじゃなく、他のクルーたちも一気に静かになる。
みんなが色々言ってくれた褒め言葉は、多分お世辞とかじゃないと思う。
素直に嬉しかった。
だけど、一番褒めてもらいたかったキャプテンに「似合わない」ってああもはっきり言われたら…もうこのままの姿でいることは苦痛にしかならない。
「……キモノ、返して来ます」
「ああ、そうしろ。お前に一番似合ってんのはツナギだからな」
「え?…え、キャプテンそれって…!」
空島からインペルダウンの最下層に垂直落下したような気分でお店に戻ろうとすると、キャプテンから思いがけない一言。
ツナギが一番似合ってるって。つまりつまり、それってそれって!
「うわーん!キモノなんかに浮気してすみませんキャプテンっ!そうですよね、下着脱いで着るような服なんかよりキャプテンの所有物である証のツナギの方が断然いいです!もう浮気なんかしませんんんッ!」
「は、何言ってんだお前…下着?」
「そうなんですよ!なんだかよく分からないんですけど、これ着る時には下着は脱ぐものなんですって!だから着崩したりとかできなくって…って、キャプテン?」
「馬鹿野郎!さっさと着替えて来い!」
「ぎゃあああッ」
なんでか鬼哭で思いっきりぶっ叩かれた。
キャプテンの愛は時々痛い。
でもキャプテン大好きっ!
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