承太郎の執事2
「病院で、なにかあったの?」
なまえちゃんはとても真剣な面持ちをしていた。
小さい頃から何事にも真剣な子だったけれど、今は切羽詰まったような、なんだか苦しそうな表情。
門の前で顔を真っ青にしていた時は、本当に慌てたわ。
肝が冷えるっていうのはこういうことね。
もし大変な病気だったらどうしましょう?
なまえちゃんは私にとって娘も同然の子。
彼女が辛いと私まで辛くなってしまう。
時間にしたら、きっと1秒とか、2秒とか。
そんな短い静寂の後、なまえちゃんは口を開いてくれた。
「…はい、実は…妊娠、」
「妊娠?!」
「こ、声が大きいです奥様…っ!」
色々と心の準備をしていたのだけれど、どうやら全部杞憂だったみたい。
それはとても素晴らしいことで、思わず張りつめていた息の分、大きな声が出てしまった。
「まぁまぁ!それで、何カ月なの?お相手は?」
「2カ月、だそうです。相手は…申し上げられません」
「あ…、そうよね、ごめんなさい。プライベートなこと聞いちゃったわね」
私は娘のように思っているけれど、彼女にとってはお仕事なのよね。
少し寂しいけれど、無理に聞き出すようなことはしたくない。
それをしてしまったら、本当に“主”と“執事”だけの関係になってしまうような気がするから。
「いえ、そういうわけでは…。それであの、申し上げにくいのですが…、」
「なにかしら?なんでも言って頂戴」
「お暇を、頂けないでしょうか」
「それは…休暇ということでは、ないのよね?」
「はい」
あの真面目で執事と言う仕事に誇りを持っているなまえちゃんが、何故?
予想もしていなかった“お願い”。
原因は考えなくたって分かる。
今回の妊娠発覚が何か関係あるのだと。
でも理由は?
相手の人と結婚するからだとか、そんな理由ではない気がする。
だって、なまえちゃんはこんなに苦しそうなんだもの。
「…いいわ。ただし、貴女は有能な執事だった。その穴を埋められる人材を探した後、お仕事の引き継ぎをしてもらうわ。それまでは、此処に居なさい」
「ありがとうございます…!」
なにかある。
そしてそれは多分、承太郎が関係しているのだと思う。
だって、有能な“執事”である彼女が、直接の主人ではなく私にこの話をしているから。
あとは、女の勘。
「さぁ、まだ顔色が良くないわ。もう少し横になって」
下げられた彼女の頭をそっと撫でれば、彼女は困ったように笑って「はい」と頷いた。
「お袋」
「あら、承太郎」
なまえちゃんが眠ったのを見届けて廊下に出ると、承太郎がすごく心配そうな表情をしていた。
承太郎ったら、本当になまえちゃんには心を許しているのね。
物心つく頃から一緒にいるのだから、当然といえば当然なのかもしれないけれど。
「なまえは…」
「大丈夫よ。今は眠っているわ」
「…そうか」
承太郎のこの様子からすると、承太郎となまえちゃんが喧嘩しているとかそういうことはないみたい。
「ねぇ承太郎?執事は男の人がいい?それとも女の人?」
「なまえがいる。二人もいらねぇ」
「二人にはならないのよ」
「…どういうことだ?」
わざわざ私に相談して来たのだから、多分承太郎には言って欲しくないんだろうけれど。
でも、口止めされたわけでもないしね。
承太郎に直接関わることだし、やっぱり突然さよならはあまりにも辛いと思うから。
彼女自身に起きていることを勝手に話すことはできない。
だから、直接関わることだけ。
「なまえちゃん、執事を辞めたいんですって」
→Next
- 15/63 -
前ページ/次ページ
一覧へ
トップページへ