.彼女をとりまく環境


―…ボー…ン ボー…ン…−


「おや、もう17時ですか」

古ぼけた時計が奏でる鐘の音に気づき、その鐘が教える時刻を認識する。

朝から立ち込めていた黒い雲のせいで、時間の感覚が幾分か狂っていたようで。
いつの間にか過ぎていた時間に思わず声までが漏れてしまった。

そして私の漏らしたその声に、大きく肩を跳ね上げる女児が一人。

「じゅうななじ…あ、あの、これってごじのチャイムですかっ?!」

「ん?ああ、そうだな。午後五時だ」

彼女を抱き抱えるDIO様へと問うその様子は、随分と慌てているように見受けられる。

DIO様が子供に分かりやすい時間表現をもって答えると、彼女は更に慌てた…というよりも、何処か怯えたように幼いその顔を歪める。

「いけない、早くかえらなくちゃ…お父さんにしかられちゃう…」

小声で呟かれた言葉に、やはり親の承諾どころか彼女自身にさえDIO様は合意を得ず此処へ連れ帰ったのだと理解する。いや、予想はしていたのだからこれは確信した、というべきか。

「DIO様、いかがなさいますか?」

「……いいだろう、一度なまえを家に帰す」

「よろしいので?」

「少し、思うところがある」

「…承知致しましした」

DIO様のご判断に決して異論があるわけではない。
しかし、少しばかり意外だと思ったのは事実。

その瞳を伏せられた一瞬になにを思われたのか。私には知る由もないことだ。

「それでは私が彼女を家まで」

「ああ。頼むぞ、ダービー」

「はい。…なまえさん、私が家までお送り致します。よろしいですか?」

「は、はい!ありがとうございます」

少し強張った表情ではあるが、恐らくそれは私に対する警戒心などではないだろう。
ほんの短い間だが、彼女と関わって分かったことは、彼女は警戒心が薄いということ。

それが良いか悪いかと言われれば些か疑問ではあるが、今はその方が好都合というもの。

「なまえ、また明日此処に来ると約束できるか?」

「あした…たぶん、だいじょうぶです」

「“多分”では不十分だな」

「あぅ…、お父さんが、いなければへいきです」

「なるほど」

DIO様の言葉に困ったような笑顔を返す彼女は、どうにも歯切れが悪い。
この年頃の子供はやはり親というものが絶対の存在なのだろう。
そう考えれば致し方のないことかもしれない。

「おじゃましました。でぃお、さようなら」

「いいや、『また明日』だ、なまえ」

DIO様は彼女の「さようなら」を否定し、小さな頭を撫でた。

嬉しそうに微笑む彼女は、それでもその言葉に返事を返すことは…なかった。



end




- 29/63 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ