彼女をとりまく環境


意識が浮上する感覚と、無意識に瞼を持ち上げたのはほぼ同時。
眼前には、瞼を閉じていようと開こうと差して変わらぬ暗闇が広がっている。

眠りから目覚めてすぐの頭は若干回りが鈍いように感じるが、それでも自然に身体は動く。

起き上がり、この部屋の暗闇を保っている一級遮光のカーテンへと手を伸ばし、その布地の温度を確認する。

布から伝わる僅かな熱。その温度から察するに、今は陽も沈みかけた夕刻となる頃だろう。

そして時刻を把握すると同時、確信する。

やはり、あの小さななまえは訪れなかったのだということを。

間違いだったのだ。彼女を帰したことが。

自分自身に舌打ちをしつつ、しかし確かに自分の中にあった葛藤を思えば…致し方ないとも、思えてしまう。

なまえの口から出た父親の存在。
たったそれだけだ。

それだけが、この腕からなまえを出した理由。

あの頃、早くに亡くした父の形見を、言葉にこそ出しはしなかったが…寂しそうに眺めていた彼女。

私には理解できない感情だったが、それでも彼女にとっての父親と、私にとっての父親は、大きく違った存在だったのだろうと感じ取れた。

その姿が脳裏を過ってしまったことこそが、そもそもの間違いだったのだ。

「フ…、随分と人間臭いことを思ったものだな…」

僅かな熱も失いつつあるカーテンを左右に引くこともなく、その場から離れる。

扉を開き、階下へ下り、呼びつけるのは執事の名。

「ダービー、昨日の娘…なまえの家の場所を覚えているな」

「は、記憶しております」

「何処だ」

「…DIO様自ら向かわれるのですか?」

「問題があるか?」

「…いえ、承知致しました」

恭しく頭を下げるダービーは既に分かっているのだろう。

なまえが昨日見せたあの反応の理由も。
私がどうするのかも。

分かっていてなお、私に対し微塵の恐怖や嫌悪、人道的制止を現さないこの男も、大概人間として軸がぶれているということだろう。

なまえの居場所を聞き出し、太陽が姿を消した時。
地面を強く蹴り上げ、宙を飛ぶように駆け抜けて行く。

二度と手放すものかと決めたものを再び取り戻すため。
なまえが口にした別れの言葉を否定するため。
自身の言葉を、実現するため…−。

全てが己のための行動。

だからこそ、もう何一つ…迷いなどない。



end




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