衝動
※若干の流血表現あり※
カチッ
ロックが外れる音がして、わたしは扉の方を見やる。
この病室の扉は、外からは開けられるけれど、中からではキーがないと開けられない仕組みになっている。
別に逃げ出したりはしないんだけれどな、と思わなくもないが、中にはトイレも洗面台もあるから、別段それを不便に感じたことはない。
小さな自動開閉音がし、姿を見せたのはポルナレフだった。
「よぉ、久しぶりだな、なまえ」
「わぁ…っ!ポルナレフ、久しぶり!」
目覚めてから1年、初めて訪れてくれたポルナレフ。
思わず飛びつきたい衝動に駆られるけれど、残念ながら今は点滴に繋がれているから、ベッドの上で上体を起こして手をバタバタさせることしかできない。
「思ったより元気そうじゃあねぇか」
「うん、割りと元気だよ。花京院せんせーには絶対安静!って言われてるけどね」
「おお、花京院にもさっき会って来たんだ。あいつ、随分白衣姿が様になってきたよな」
ポルナレフは、わたし的には1年ぶりくらいなんだけれど、実際は5年の月日が流れているというだけあって、花京院同様に“大人の男性”という雰囲気を感じた。
でも、相変わらず面白くて、優しくて、ちょっと心配症で。
彼はわたしの体調を気にしながら、いろんな話をしてくれた。
最近故郷のフランスであった出来事や、花京院が大学で頑張っていること、それに承太郎がなにやら海洋生物の研究で成果をあげているらしいということも。
「俺はしばらく日本にいる予定だからよ、また来るぜ」
「うん、ありがとう。楽しみにしてる」
楽しい時間はあっという間とはよく言うけれど、本当に時間が経つのが早かった。
お別れするのは寂しいけれど、わがままを言ってはいけない。
わたしは自分に言い聞かせ、笑顔で手を振る。
「んな寂しそうな顔すんなよ」
「!」
ポルナレフは困ったような笑顔を浮かべて、わたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
がっしりとした身体は少し硬いけれど、でも、抱きしめる力は柔らかい。
あったかい…。
首筋に顔を埋め、直に暖かい温度を感じる。
そして、わたしはその白い肌に噛みついた。
ブツ…ッ
「…イ…ッ!?」
耳元で聞こえたポルナレフの声と、同時に勢いよく剥がされた身体。
「…え?」
ポルナレフは首元を押さえ、そこからは血が流れている。
どくり、
全身が、冷たくなる感覚。
口の中に広がるそれが血の味だと分かったのに、それをこんなにも。
こんなにも、甘美だと思っている。
「っなまえ!」
「あ…ぁ…、」
ポルナレフの首元を流れる血。
もっと欲しい。
そんな衝動が頭の中を支配して、なにも考えられなくなっていく。
「ハイエロファントグリーン!」
頭が真っ白になる直前、わたしの身体が動かなくなり、強い衝撃を感じた。
急激にダウンしていく思考。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何が起こっているのか到底理解できないというのに、わたしは随分と場違いなことを思っていた。
喉ガ、乾イタ。
end
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