自覚


『−…なまえ』

誰…−?

暗闇の中、何処からか声がする。

『みょうじ なまえ』

「っ!」

耳元で聞こえる声に、勢いよく目を開く。

目を閉じていたのか、と、そこでようやく気づいた。

「DIO…ッ?!」

目を開けて見えた世界は、それでも相変わらず暗闇だった。
なのに、不適な笑みを浮かべる目の前の男の姿は、何故かはっきりと視認できる。

それは紛れもなく、わたしたちが必死の思いで倒した吸血鬼…DIOだった。

『死んだはずの私が何故、と言いたいのだろう?』

「…、」

『分かるさ、私はお前の一部なのだから』

「一部…?なにを言ってるの」

『お前とて分かっているのだろう?』

するり、伸ばされたDIOの手が、わたしの頬を滑り、唇に触れる。

今すぐその手を振り払って、この男と少しでも距離をとりたい。

なのに身体はぴくりとも動いてくれなくて、正面の紅い瞳から目を背けることすらできない。

『この牙で、ポルナレフの肌を突き破った感覚はどうだった』

「ひっ、」

唇から、白く長い指が口内に侵入してくる。
歯先に指が当てられ、瞬間、わたしの脳裏に走るのは…。

そうだ、わたしは…ポルナレフの…。

『旨いと感じたんじゃあないのか?奴の血を…』

「そ…んな…」

『なにを抗うことがある。自分の欲求に素直になれよ』

「っ黙れ!」

ガリッ

言葉と同時に突き立てた歯は、簡単にその指を貫いた。

しかし、DIOは指をゆっくりと引き抜き、その笑みを一層深めるばかり。

『言っているだろう。私はお前の一部なのだ。私の血ではその乾きは消えん』

「違う!血なんかいらない!」

『ククッ、なまえよ。お前は認めたくないだけなのだろう?自分が化け物になったことを。…だがな、』

一歩、二歩…。
ゆっくりと後ろへ下がっていくDIO。

段々と、周りの闇に溶けていく。

『お前がそんな化け物になっていることを、お前の仲間が知らないと思うのか?』

「なっ、どういう意味だ?!待て…!」

完全に闇へと混じるその刹那、彼はとても楽しそうに言った。

『みょうじ なまえ、お前は血の味を知った。ようこそ、吸血鬼アンデットの世界へ!』



「−…待て…ッ!!」

「なまえ!」

伸ばした手は、何かを掴んだ。
いや、何かに包まれた、と言う方が適切だろうか。

「か…きょう、いん…」

「良かった…」

泣きそうな顔でわたしの手を握る花京院。
何があったんだっけ、と混乱したのは一瞬で、すぐにわたしは思い出す。

「あ…わ、たし…わたしポルナレフを…!」

ポルナレフに噛みついたこと。
血を美味しいなんて思ったこと。
そして、あの夢の内容も…全部。

「落ち着くんだ、なまえ!」

「嫌だ、嫌だ…怖い…っ!」

「なまえ!…大丈夫、大丈夫だから…っ!」

「は…っ、はぁ、…はぁ…っ」

「自分の吐いた息を吸って…ゆっくり吐いて…」

色んな感情がない混ぜになって、心も頭の中もぐちゃぐちゃになって。

暴れるわたしをハイエロファントで抑え、両手でわたしの頬を包む花京院。

過呼吸になって呼吸すらまともにできなくなったわたしを、必死で落ち着かせようとしている。

暫くし、ようやく平常の呼吸を取り戻したわたしは、不思議と、思考までもが冷静になっていた。



「花京院、お願い…わたしを殺して」



end




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