山姥切さんが心を許す
◇写しの方の山姥切さん。
俺を顕現させた審神者なる人間は、戦などとはまったく無縁そうな若い女だった。
どうやら、俺が初めて顕現に成功した刀剣男士なのだそうで、女は甚く喜び、俺を歓迎すると言った。
どうせ俺が写しであることを理解していないのだろう。
この上辺だけを見て評価しているのだ。どいつもこいつも…この女も、きっと。
少ない言葉で突き放せば、女は困ったように眉を下げ、それでもじっと俺を見上げて微笑んだ。
「霊剣『山姥切』を模した堀川国広の傑作、ですよね。知ってます。これでも結構勉強してるんですよ」
写しであろうと傑作であることに変わりはないだろうと女は言う。
その言葉に僅か気を許しかけたが、そんなことを言うのは俺が初めて顕現できた刀剣男士だからなのだろうと思い直す。
どうせ写しには、すぐに興味が無くなるんだろう。わかってる。
それから数日、数か月が過ぎ、本丸も随分と騒がしくなった。
短刀、脇差、太刀に大太刀…それから、俺と同じ打刀。
沢山の刀剣男士が顕現し、内番だの遠征だの、時間遡行軍との戦闘だのと日々忙しく過ぎていく。
そんな中で、俺はずっと審神者…なまえの近侍を任され続けている。
「…本当に物好きだな、あんたは」
「えっ!?山姥切さんって芋羊羹嫌いでした?!」
「違う。…あんたは、いつまで俺を近侍として置いておくつもりなんだ」
暖かな日差しが差し込む縁側で茶を啜るなまえは、俺との間に置かれた茶請けの芋羊羹を見て俺の意図しない驚きを見せた。
確かに俺も唐突だったとは思うが、しかし茶請けの話だと思われるとは。
…まぁ、いい加減慣れたが。
「あー、ずっと山姥切さんにお願いしちゃってますもんね。いい加減で交代しないと、疲れちゃいますよね…すみません」
「俺のことはいい。あんたは俺なんかより名のある刀を顕現しているだろう。もっと、そういう連中を頼りにすべきなんじゃないのか」
「…?もちろん、みんな頼りにしていますよ。でもやっぱり山姥切さんはわたしにとって特別なんです」
「…写しの俺が、か」
「うーん、山姥切さんはそこんとこ気にしているみたいですけど、写しであろうとなかろうと、わたしにとって貴方は初めてできた大事な仲間なんです。特別じゃないわけないじゃないですか」
「仲間…」
「…それに、出会った頃と比べたら山姥切さん、凄く柔らかくなりました。だからより一層できるだけ一緒にいたいって…そう思うんです」
武具である刀に対して『柔らかくなった』という言葉は、些か矛盾したものに感じる。
それでも何故か、彼女がそう言うのであればそれも悪くないと…そんな風に受け止めている自分がいた。
「…俺は近侍を辞めたいわけじゃない。あんたが、望むなら」
なまえが俺を認めてくれたように、俺もなまえを認めよう。
…とっくに認めていたことに気付かないふりをして、俺はなまえを真っ直ぐに見つめ、言葉を紡いだ。
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