if…カーズが生きていたら
◇本文名前変換なし。
究極生命体になって太陽と友達になった後、目的を失ったカーズ様が別段人間に興味を持たず独りで生き延びていたらという妄想。
時代背景は特に考えていません。
一応なまえさんは生まれながらの幽波紋使いだけども話の中では一切触れていない。
ここまで設定。
「食物連鎖というのを知っているか」
低く静かな声で、人のようなかたちをした生物は言った。
「…はい」
両腕を周囲の植物と一体化させ、ただただ横たわって空を見上げていたそれが言葉を発したことに、わたしは驚きつつ頷く。
「お前たち人間は、食物連鎖の頂点に立っていると思い込んでいるようだが…こうして植物の一部となってみるとわかる。…食物連鎖に頂点などないのだと」
カーズと呼ばれるこの生物の監視を財団から頼まれてから早二年近くになるわたしは、その淡々とした声を聞くこと自体は初めてではなかった。
…初めてではなかったが、ひと月に一度あるかないかの出来事だ。
多くの日をこうして植物に浸食しているのかされているのかわからない状態で過ごし、昇る太陽を目でなぞっては沈む太陽を見送るの繰り返し。
第一級の危険生物と聞いていたわたしは、任務にあたるに際して遺書など
認めていたものだが、今のところ何事もなさ過ぎるほどに何もない。
「全ては循環しているのだ。結局はこの地球という生命に還り、そしてまた生み出される。…そういう意味では、地球こそが頂点。と言えなくもないのかもしれんな」
「その場合…あなたはその循環のどこに組み込まれているんでしょうか」
単純に疑問が口を突いて出ていた。
にわかには信じがたいが、カーズは不死身だと聞かされている。
人間のような外観をしているが、こうして植物と一体化していたり、身体の一部を別の生き物に変化させることができたり…。
食事も睡眠も不要。種の増殖意思さえも持たぬカーズは、もはや生物の定義を成していないともいえる。
しかし確かにこれは“生きて”いる。
人間と同じような姿で、同じような生命反応で。
「私は…言うなれば地球だ」
「地球、ですか」
つまり、あなたこそが頂点だと?
そうわたしの言葉は続くはずだったが、それより早くカーズが口を開いた。
「私の中を生命が巡っていく。通過していく。ただ、それだけだ」
還る場所など何処にもないのだ、私には。
そう聞こえた気がした。声と呼ぶにはあまりにもか細く、かき消えそうな空気の振動。
「…寂しいんですか、あなたは」
強い風が吹き、自分の声さえも聞き逃してしまいそうなほど辺りの植物たちが大きく揺れた。
わたしの問いかけはカーズに届いたのだろうか。
カーズの返答は、わたしには聞こえなかった。
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