仗助と社会人になった先輩
◇4部といいつつ1年後。仗助高校2年生。
「なまえさんって、クッキーとか好きなんスか?」
いつものオーソンで、いつものクッキーを手に取るなまえさんを見て、おれは聞いてみた。
好きな人の好きなもん知りてぇって思うのは当然のことだ。
別に、なまえさんが年上で高校卒業してからすぐ社会人になって、会えるのが週末くらいしかねーからって焦っているわけじゃあない。
「んー?別に、そこまで好きじゃあないよ。どっちかっていうとチョコのが好き」
「え、そーなんスか。だってなまえさん、毎週おんなじようなクッキー買ってるから、おれはてっきり…」
「ああ、まぁ確かに」
なまえさんの答えに、聞いて良かったと思う気持ちと、ならどうしてそんな毎週毎週そんなに好きでもねークッキーを買ってるんだという更なる疑問の両方が生まれた。
疑問の方については、だいたい想像がつく。
誰かにあげるんだってこと。
おれとなまえさんは付き合っているわけじゃあないし、おれはまだ自分の気持ちを伝えることもしていない。
だから誰のために買ってるんだ、なんてことは言えない。聞けない。
そんな気持ちを知りもしないだろうなまえさんだが、おれの聞きたかったことをいとも容易く教えてくれた。
「これね、一枚ずつ小袋に入ってるの。こういうやつの方が会社では配りやすいから、どうしても似たり寄ったりになっちゃうんだよねぇ」
「はぁ、」
「うちの会社、昼休憩以外は各自テキトーに休憩挟みなさいよっていうスタンスだから、みんな結構引き出しにお菓子とか忍ばせてんのよ。で、みんなもお菓子配ってくれるから、わたしも返さなくちゃってね」
「そういうもんスか」
「そーいうもんなの。人付き合いよ、人付き合い。仗助も大人になりゃ分かるって」
特定の“誰か”のためじゃあなかった。
良かった、なんて言葉が喉にまで上がってきたけれど、なんとか吐き出すのは息だけに留めた。
それを、なまえさんは多分、おれが「良く分かんねーな」とか思っているんだと考えたんだろう。
大人ぶるなまえさんは正直ちょっとガキっぽいのに、でもやっぱしガクセーと社会人じゃあステージが違う。
歳は2コしか違わないのに。身長はおれの方が断然高いのに。こうして今、隣に立って話しているのに。
どうして、こんなに遠く感じるんだ。
「…おれだって、早くオトナになりてぇよ」
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