承子ちゃんの一時帰国


「こっちも夏休みに入った。すぐに日本へ帰るから」

だから、なまえさえよければ迎えに来てくれないか。
久しぶりに電話ができて舞い上がっていたわたしに、承子ちゃんはそう言いました。
本当は、まずご家族と会って、お家でゆっくりして。それから日を改めて会う方がいいんじゃあないかと思った。…思ったのだけれど…。

「はいっ!空港まで行きます。絶対!」

いつからわたしはこんなにわがままになったのでしょうか。
近いうちに会えると思ったら、もうそれだけで嬉しくて嬉しくてたまらなくて。一秒でも早く承子ちゃんに会いたいわたしは、承子ちゃんの『お願い』にあっさりオーケーしてしまいました。

そして修学旅行くらいでしか来たことのない空港でそわそわしている今、やっぱりご家族には申し訳ないことをしてしまったかしら、と…ちょっぴり反省しています。

でも、もうすぐ承子ちゃんに教えてもらった便の到着時刻。
ドキドキ、ドキドキ…。心臓が、少しずつ強く、早く脈打ってきているのを感じます。

ああ、承子ちゃんに会ったら、まず何から話しましょう。
承子ちゃんにお話したいこと、お話してもらいたいこと。たくさん、たくさんありすぎて、頭の中がぐるぐるしてしまう。
どんな顔でお出迎えしたらいいんでしょう。そういえば、今はロビーにいるけれど、やっぱり到着口のところで待っているべきでしょうか?
でも、そこからすぐに荷物を取りに行かなくちゃいけないし…荷物の受け取り場所から少し離れたところならどうでしょう?

いろいろな便の情報がいろいろな言語でアナウンスされる中、わたしは結局じっとロビーで待っていることができなくて、あーでもないこーでもないと、そわそわうろうろ…。
なんだかとっても挙動不審な人に見られてしまいそうですが、わたしには周りの目なんて今はどうでもよくて。

「あ…っ」

到着口の向こうから、ざわざわとたくさんの人の声が聞こえました。
わたしはすぐにそちらの方を向いて、じっと次々やって来る人たちを見つめます。
絶対、見逃したりしないように。

そして、見つけた。
見間違えるはずがない。

「承子ちゃん…っ!」

「…なまえ!」

どんな顔をして、どんな風に挨拶するのがいいのかな。
そんなことを考えて、いろんなシミュレーションをしたけれど、でも。

考えて、身構えていたことなんてぜんぶどこかへ吹き飛んでしまった。

気がついたら嬉しくて顔がだらしないくらい綻んでいて、早足で承子ちゃんのもとへ足は進んでいた。
そして人目なんかやっぱりどうでもよくて、飛び込むように承子ちゃんに抱きついていた。

承子ちゃんもしっかりわたしを抱き留めてくれて、二人して長年ぶりの再会を喜んでいるみたいにぎゅっと強く抱き合って。

「おかえりなさい、承子ちゃん。…会いたかった、です」

「ただいま、なまえ。アタシも会いたかった、ずっと…。まだ1年も経ってねぇってのに、ずっとなんて言い方はちょっぴりおかしいかもしれねぇが」

「ううん、そんなことないです!わたしも承子ちゃんに会えないの、もっとずっと長く感じてるから…」

なんだか泣きそうなのに、抱きしめてくれている承子ちゃんの匂いと体温でドキドキの方が強くなって、結局幸せの方が勝ってしまいました。

胸が切なくなるこの痛みにも似た感覚は、きっと、幸せの痛みというものなのでしょう。




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