攻略キャラのような承太郎


◇年齢的には3部と4部の間くらい。(20歳前後)


「承太郎って乙女ゲームのメインキャラみたいだよね」

「は?」

ソファに座り、携帯ゲーム機をカチカチやっていると思えば、なまえは唐突に言葉を発した。

新聞を読んでいたおれは目線だけをなまえに向けるが、なまえは相変わらず小さな機械と向き合っている。

「高身長なイケメンで、声もいいし頭もいいし、おまけに強いでしょ。ハーフなうえに古い貴族の家系だけど学生時代はやんちゃしてた、とか」

むしろエロゲの主人公以上だよ。と、よく分からない長台詞を淡々と喋るなまえ。

おれは基本的に他人の評価なんぞ気にする方ではないが、惚れた弱みとでもいうやつだろうか。こいつの評価だけは気になってしまう。

「それは良くないことなのか」

「うーん、半々かな」

半々。一番どうしようもない答えだ。
完全に悪いのなら改善すればいいだけの話だが、良い部分があるのなら下手にどうこうするとむしろ悪化する恐れがある。

「承太郎ってかっこ良すぎるんだよねぇ」

ゲーム機をテーブルの上に置く気配がし、新聞へ戻していた視線を再びなまえへ向ける。
するとなまえもこちらをじっと見ていたので、自然に目が合った。

「こっちはいつもドキドキさせられてて、でも不安も同じくらいあるの。いつか自分から離れていっちゃうんじゃあないかって」

「それはねえから安心しろ」

「もう、だからそういうところがかっこ良すぎるんだってば」

顔を薄く赤らめながら目を逸らすなまえに思わず口元が緩む。
人間は…いや、全ての生き物に共通して、自分以外の個体がいだく感情や思想を完全に理解することなどできはしない。

だからなまえの言う不安というのも分からなくはない。
おれだって同じだ。愛想を尽かされるのではないかと思うこともある。

「おれがゲームのメインだってんなら、お前はヒロインってことになる。つまり、それまでの過程になにがあろうが結局結ばれるってことだ」

「…身も蓋もないっていうか、極論だね」

「事実だろ」

「ゲームにはバッドエンドっていうのもあるんだよ」

「お前がおれ以外を選ぶなら有り得るかもな」

「逆だって、」

「ねえよ」

ばっさりと言い切り、おれはまた新聞へと視線を戻す。
視界の端に映ったなまえは完全に赤くなった顔を膝で隠すように埋まっている。

「こっちばっかりドキドキさせられてるの、ずるい」

呟いたなまえの声は小さいものだったが、生憎おれの鼓膜はなまえの声には敏感に反応する。

なまえは分かっていない。
おれがお前をどれだけ必要としていて、おれがどれだけお前の言動に一喜一憂しているのか。

おれはなまえの言うその手のゲームをやったことはないが、おれから言わせればおれがなまえを落とす側だと思っている。

さあ、今日はどんな選択肢があるだろうか。



end




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