悩める典明くん
◇3部本編後の生存院。なまえさん不在。
なまえさんとキスをした。
旅から帰り、怪我も復学できるほど回復して数か月が経った頃、僕となまえさんはそういう意味での付き合いを始めた。
僕も彼女も初めてのこの関係。手探りだけれど一歩ずつ近づいていけたらと思っていた。
手を繋いで、キスをして。
それはとても幸せでフワフワした気持ちになったのだけれど、でも僕は少し。もう少し先へ進みたいと、そんなことを思ってしまった。
いつから僕はこんなにも欲張りになったのだろうか。
もっと傍に居たい。もっと触れ合っていたい。なまえさんの体温を、匂いを。もっと全身で感じたいだなんて。
一度そんなことを考えてしまえば、もう戻れない。
なまえさんと会って話をしていても、何の気なしに触れ合った手や肩でさえも、そんな些細なことがトリガーになって、僕の中に燻る醜い欲求が全身を覆う。
「…ふ…っ、なまえさん…」
女性はどうなのか分からないけれど、男というのは面倒な生き物だ。
自分の欲望が物理的に見える形で滲み出てしまうし、それを吐き出してしまわないと治まりがつかないどころか痛みさえ伴う。
僕はよく、落ち着いているだとか冷静だとか言われるけれど、れっきとした健全な高校生の男だ。
頭を過る感情が醜いことを分かっていながらも、身体は従順に反応してしまう。
自分の性器を自身で慰めながら、何度も何度も頭の中でなまえさんを犯す。
白い首筋に吸い付いて、柔らかい胸を揉みしだいて。恥ずかしがるなまえさんの脚を思い切り開いたら、細い腰を掴んでドロドロになるまでナカをかき混ぜる。
「う、く…ッ」
ズキズキと痛いほど張りつめていた僕の先端から、どくどく白く熱い粘液が飛び散る。
前回の自慰から何日も経っていないからそんなに量は多くないけれど、手を汚す自身の欲求に虚しさを感じずにはいられない。
なまえさんは、こんな僕を知ったら幻滅するだろうか。
『典明くんの手、綺麗で大きくてあったかい。すごく安心する。あ、もちろん典明くんだから、だよ?』
初めて手を繋いだ時に彼女が言ってくれた言葉。
今は、ベトベトに汚れている僕の手。
僕は聖人でもなんでもない。けれどなまえさんを怖がらせるようなこともしたくない。
「はぁー…」
ぐちゃぐちゃにしたいと思う気持ちと、大切にしたいと思う気持ち。
どっちも本物の僕の気持ち。
手にこびり付いた白濁をティッシュで綺麗に拭い取り、ごみ箱へ放り投げる。
そうして僕は、また明日もなまえさんに綺麗な人のフリをする。
いつまで我慢できるかは、分からないけれど。
end
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