ディオを押し倒した(結果的に)
◇ディオとなまえさんは20歳前後くらい。
仕事終わりの金曜日。
明日から二日間のお休みに入るわけで。そして今日、恋人の家に泊まるわけで。
つまり、そういうコトになるんだろうなぁ、とは薄々思っていたわけで。
「やはりこれにして正解だった。手間が省ける」
「ひゃっ!」
お夕飯を食べてシャワーを借りて。
前に「泊まる時用のパジャマ欲しいな」なんて零していたことを覚えていたらしい彼…ディオが、わざわざ自分とお揃いのローブっていうのかな?それを用意してくれていた。
それはとてもありがたくて嬉しいことなのだけれど、普段パジャマやシャツを寝間着にしているわたし的には、少し簡易というか心許ないというか…。
そんなことを思っていた矢先。
シャワーを終えたディオに後ろから抱きしめられ、合わせ目から侵入したその綺麗な手はわたしの太腿を撫であげていく。
ゾクゾクした感覚が背中を這い上がり、思わず声が漏れてしまう。
「だ、ダメ!」
そのまま更に先へ進もうとするディオの手を必死で止める。
結構必死に止めたおかげか、ディオは強行することなく一度その手を服の中から引き戻してくれた。
「なんだ、今日はやけに強情を張るじゃあないか」
「今日は…ていうか今週はダメ」
「都合が悪い日、というやつか?」
「そうじゃないんだけど、そうと言えばそうかな」
「随分と適当な言い訳をするな。言いたいことがあるなら言え」
「う…っ」
やはりこんな適当な言い方では引き下がってくれそうにない。
まぁね、分かってた。
言うから耳元で喋るのやめてください。耳が孕む。
「来週の土曜日にね、友達の結婚式があるの」
「…それとこれと何の関係があるというのだ?」
「あるよ、大ありだよ!だってディオ、その…最中によく噛むでしょ、首筋とか。わたしの持ってるドレス、首のところ隠れないから…困る」
そう、ディオにはちょっと困った癖がある。
噛み癖、なんて言ったらなんだかワンちゃんみたいだけれど、実際にそういうことなのだ。
だから行為そのものが嫌とかそういうことではいのだけれど…やっぱり今回みたいな時には、ちょっと困る。
「成程、言いたい事は分かった」
「う、うん…ごめんね?」
また今度、って言おうとしたその時、ぐいっと後ろ側へ身体が引っ張られ、わたしは抗う間もなく後ろへ倒れた。
「わ…っ!?」
当然後方へ引っ張る力を加えたのは背後にいたディオで、そのまま倒れたわたしはこれまた当然ディオの上に伸し掛かる体勢になってしまっている。
慌ててその身体の上から退こうとしたのだけれど、わたしを抱きしめていた腕によって身体の向きを180度変えられてしまった。
「ちょ、ディオ…?」
「ククッ、良い眺めだななまえ」
「…?きゃ…っ」
彼の身体の横に腕をついて上体を起こすと、上に跨る体勢になっているわたしを下から眺めるディオが、それは楽しそうに目を細めて笑った。
何が「良い眺め」なんだろう?
疑問に思い彼の視線を辿ってみれば、さっき体勢が変わった時に肌蹴たのだろう。
ローブの胸元からお腹にかけての合わせ目が…かなり、乱れていた。
しかも今は彼の身体に跨っているから、脚もほとんど隠れていない。
そんな自分の状況に気づき、慌てて上下の合わせ目を両手で繕う。
「もぅ、なんなの…」
「これなら問題ないと思ってな」
「どういうこと…?」
「この体勢なら俺はお前に噛みつくことはないと思わないか?」
「っ、」
にやりと怪しく笑うディオの言いたい事がなんとなく分かってしまい、わたしは一気に顔へ熱が集まるのを感じた。
つまり、この体勢で事に及べと言いたいのだ。わたしが、主導で。
「や、やだ、そんなのムリ…っ!」
「無理?そんなことはないだろう」
なんとも滑らかな動きで伸ばされた手はわたしの頬に触れ、親指で唇を一撫ですると、そのまま首筋から更に下へ…。
「いつも俺がやっていることを再現すればいい。それだけのことだ」
「んっ」
ローブをおさえる手をやんわりと押しのけ、するりと胸を撫でていく。
ただ本当に撫でるだけで、むしろそのやんわりとした触れ方にぞわりと肌が粟立つ。
「やぁ…ダメ、だってば…ディオ…っ」
するすると胸やお腹を撫でるだけの掌に、少しずつ身体の芯が熱くなり、そして力が抜けていくのを感じる。
「なァなまえ?お前、今自分がどんな顔をしているか分かっているか?」
「え…?きゃっ」
ディオの言葉がうまく理解できなくて首を傾げると、またぐるりと身体の向きが変えられた。
今度は、わたしの背中に柔らかい感覚。それから、わたしを見下ろすディオ。
「残念ながら時間切れだ、なまえ」
ディオは唇の端を舐め、目を細めて笑う。
それは楽しそうに、“男”の顔で。
「(ああ、ストール用意しなくちゃ…)」
わたしは、抗うことをやめた。
end
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