承太郎と自己分析


「冷静に物事を分析できるところ。行動力があるところ。観察力があって且つ注意深いところ。それから〜…」

進学やら就職やらの為に書けと配られた『自己分析シート』の項目を眺めながら、なまえはつらつらと述べ立てた。

突然始まったそれは、どうやらなまえから見たおれの“長所”らしい。

面と向かってなまえの口から紡がれる言葉は、おれの身体をむず痒くする。

「力持ちなところ。博識で頼りになるところ。不器用だけど優しいところ。あ、これじゃあ“好きなところ”か。えーと、」

「おい、まだ続ける気か」

「え、だって長所はいっぱい書いておいた方がいいじゃない?」

「もういいだろ。充分だ」

「そう?」

居た堪れないおれの心情など露とも知らない表情で小首を傾げるなまえ。

次の項目は“短所”だったか、と頭を過る。

なまえの口からおれへの駄目出しがされると思うと、身体は勝手に強張った。

しかし、なまえは紙を眺めたまま口を開く気配がない。ただ、眺めているだけ。

「…おい」

「んん?なーに?」

「短所は、言わねえのかよ」

自分からわざわざ催促することもないだろうに、おれの痺れは切れてしまった、

「短所?んー、短所はねぇ…タバコ吸うとこかな。でも流石にそれは書けないしね」

それだけ言うと、なまえはまた紙面に視線を戻す。この話はもう終わったのだとばかりに。

おかげでおれは妙に熱をもった顔面を見られずに済んだわけだが、してやられたようで何故だか悔しいと思った。

「…芯が強い。喧しくねえ。偶に抜けちゃあいるがいざって時には頼りになる」

「…承太郎?」

「長所だぜ、お前の」

「わたしの、長所?」

おれの言葉に目を見開き、徐々にその顔が赤みを帯びていく。

「あ、ありがと…。ふふっ、就活用の調書には書けないけど、嬉しい」

「書きゃあいいじゃねえか。それでおれに提出しな」

「承太郎に出すの?」

「永久就職って言や分かるか?」

「永久就職…」

噛み砕くようにおれの言葉を呟き、瞬間湯沸かし器よろしく一気に耳まで赤くなったなまえに、おれはこういう反応するところも“好き”な部分だと、胸の内だけで呟いた。


かくして長所とは自身よりも周囲の方が見つけやすいものである。


「承太郎ってばプロポーズみたいなこと言うからびっくりしたよ!」
「(短所は”鈍いところ”、だな…)」



end




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