承太郎とアフターストーリー


◇ゾッとする話。


DIOを倒し、仲間たちはSPW財団によってそれぞれ回収された。

おれが他の仲間たちの状態を知ったのは…翌日のことだった。

財団の医師は、花京院が死んだこと。ポルナレフを治療中であり、しかし命に別状はないこと。そして、なまえが予断を許さない状態にあり、恐らく視力を失うということを説明した。

「最善を尽くします」医師はそう言ったが、おれは彼女の視力が二度と戻らないだろうと確信していた。

生身に受けたダメージであれば、それなりに治療法はあるだろう。
しかし、おれが知る限りなまえは幽波紋攻撃で目をやられた。

きっとその傷が癒えることはないだろう。

おれが日本に帰国してから1カ月後、状態の安定したなまえは日本の病院へと移された。

学校からは少しばかり遠い病院だったが、ここらじゃあ一番デカい病院だ。
なまえを担当していた財団の医師も一緒に移り、少なくとも彼女が目覚めるまでは引き続き対応すると言っていた。

おれは毎日病院へ足を運んだ。

最初は目元にグルグルと巻かれていた包帯も、数週間後には外された。
そこに傷はない。ただ、瞼が閉じられているだけに見える。

ある日、医師がなまえの瞼を指で持ち上げ、その瞳孔を確認しているところを見た。
その瞳は、白く濁ることなくそこに在った。

おれと同じものを見、おれを映していた瞳。

それが変わらず、そこに在る。

しかし、今やそれはそこに在る“だけ”だ。
もうおれを映しはしない。

そう再認識した瞬間、おれはひどい喪失感に襲われた。

情けない話だが、おれはその時初めてみょうじ なまえという女に惚れていたのだと知った。

『承太郎、あれ見て!』

おれを見上げ、ころころと楽しそうに笑っていたなまえ。
DIOを倒して日本へ帰国したら、花京院と三人で一緒に学校へ行き、帰りは寄り道をしたり誰かの家に集まったり。そんなふつーのダチみてぇなことをしたいと言っていた。
しかし、叶うと思っていたそのどれもが、何一つ叶わなくなった。

てめーの気持ちなんざ、一生気が付かなけれりゃあよかったんだ。

そうすれば、失ったいくつもの未来をこんなにも後悔することはなかっただろう。
罪悪感を抱きながらも、たまにどっかで元気にやっていると知らせを聞ければ救われた気になれる。そんなもんだっただろうに。

だが、そんなことを考えたところでもう遅い。

おれはなまえが好きだ。
どんな状態だろうと、おれの側に居てくれりゃあそれでいいと…そう思った。



それから更に数カ月後。

財団から、なまえが意識を取り戻したとの連絡を受けた。

おれは左目の眼帯が外れるまでの間、暫くなまえのもとへ行っていなかったが、ようやく眼帯も外れ、病院へ向かった。

眼帯が取れても変わらず左目は暗闇のままだったが、スタープラチナの見たものが直接脳に伝達されるので、歩行や生活に支障はなかった。

それに、この左目にうつる暗闇をなまえも見ているのだと思えば苦に感じることもなかったし、鏡や窓なんかに写る度、おれは彼女の瞳と目が合っているのだから幸福すら感じられた。

「すまねえ。八方手は尽くしたんだが…」

嘘ではない。
最善を尽くすと言った医師はずっと治療法を模索していた。

「謝らないで。確かに不安は多いけれど…耳は聞こえるし言葉も喋れる。これから身体の方のリハビリと併せて徐々に慣れるように頑張るよ」

おれの声を頼りに顔を向けているのだろうなまえの視線は、やはりズレた場所へと向けられている。

不安で押し潰されそうなくせに、強がっているのがバレバレだ。

探るように伸ばされた手を取り握ってやれば、少しだけ安心したような表情になる。
そんななまえの表情に、おれは思わずつり上る口角を抑えることができない。
何も知らないなまえは、おれの手をぎゅっと握り返した。



それからは、よっぽどのことがない限りおれは毎日なまえのもとへ足を運んだ。

最初、あいつの両親はおれを見て訝しげな表情を浮かべたが、足繁く娘の見舞いにやって来るおれに気を許したのか、最近じゃあ「娘のこと、よろしく頼みますね」なんてことを言われるまでになった。

おれを信頼した彼らは、なまえの左目と同じ色をしたおれの右目と、なまえの右目と同じ色をしたおれの左目に疑問を持つことはなかった。

まぁ、手術を担当した医師が何かうまいこと丸め込んだのかもしれねえが。

おれのこの目のことを知っている人間は、おれとおれの両親、手術を担当した医師…そしてジジイだけだ。

そして表向き、お袋たちやその医師にはこう言ってある。
「なまえの視力が戻る可能性のためだ」と。

しかし、ジジイだけは違う。

なまえが目覚めたと聞き、わざわざ日本まで見舞いにやって来たジジイは、おれの顔を…左目を見た瞬間、勝手に察しやがった。
まったく、面倒臭い奴だぜ。

ジジイは一瞬戦慄したようなツラをしていたが、おれには何も言わなかった。

憐れみをかけたつもりか。
そう考えたが、それはどうも違うらしい。

「SPW財団の所有している施設に来ないかって、言ってくれたんだ」

「施設…?」

「うん。ジョースターさんやSPW財団の人には色々甘えちゃうことになるけれど、そこで点字を勉強したり、目が見えなくても一人で生きていく訓練を受けさせてもらえるんだって」

「一人で…」

「施設はアメリカだって言うから、当然両親には了解貰わないといけないけれど、わたし個人としては…行きたいって思うんだ」

なまえがジジイから提案されたという内容を聞き、おれは納得した。
要は、おれからなまえを引き離そうって魂胆だ。
施設の件は始めからそのつもりだったのかもしれないが、おれに一言も告げずになまえへ話したのは、つまりそういうことだろう。

だが、全て計算どおりだった。

自分の娘を救うためにこんな状態になっちまった女を、ジジイが放っておくはずがねえことをおれは知っていた。
ジジイが提案するとしたら、自分がすぐに力になってやれるアメリカになるだろうことも予想するのは簡単だ。
そしてジジイは知らない。
おれがアメリカの大学へ進学することに決まっていることを。

行ったこともない土地。一人になる孤独と、生活への不安。

いくら強がってみせたところで、それは強がりでしかない。

ほら、突けば簡単におれのところへ落ちてくる。

「最期まで面倒みてやる」

エメラルドグリーンの左目から、薄い赤の混じった雫が一滴…白いシーツに落ちて滲んだ。



end
イイハナシダッタノニナー




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