仗助くんが本気を出した結果


◇突然始まり突然終わる。シリアス。


「なまえちゃんが悪ィーんだからな…」

「…え…?」

わたしには、今の状況がまったく分からない。

どうしてわたしが仗助くんのベッドで仗助くんに押し倒されているのか。
わたしを覆うようにしている彼の目がいつもと違う理由も、その言葉の意味も。

「じょう、すけくん…ご、ごめんわたし…何か気に障ることしちゃったかな…?」

いつもの柔らかい表情も雰囲気もそこにはなくて、まるで知らない人みたいだと錯覚する。

低く掠れた声に、何か彼を怒らせるようなことをしてしまったのだろうと思い謝罪を口にするけれど、どうやらそれは見当違いらしい。

仗助くんはますます眉間に皺を寄せてしまった。

「別に、おれは怒ってるわけじゃあないぜ。この状況でナニするか分かんねーほど、子どもじゃねぇだろ…お互いによ」

「…でも、だって…わたしたちは友達で、」

「あんだけおれのこと煽っておいてよく言うぜ。…それに、」

ぐっ、と仗助くんの顔が近づく。
お互いの唇が触れてしまいそうな程、近い。

“煽る”と仗助くんは言ったけれど、そもそもわたしたちは友達だ。
わたしはただ、仗助くんと友達として普通に接していたつもりだったのに…。

状況に頭がついていかなくて、情けなくも滲んでいく視界。
ぼんやりする視界の中で、仗助くんの唇が動く。

「おれはなまえちゃんのこと、友達だなんて思ってねーから」

「…っ…ん、んん…っ」

仗助くんの唇が、ついにわたしの唇と重なった。
それは所謂キスというものであり、恋人同士がするべきものだ。

わたしはファーストキスだったけれど、その感触だとか本来感じるのだろうドキドキだとか。
そういうものは一切なくて、ただ恐怖と嫌悪感だけが押し寄せる。

…なにより仗助くんの言葉が頭の中で反響して…心から温度が消えていくみたいだった。

「…ふ、…っく…っ…」

「…あ…っ」

一粒零れ落ちた雫を追いかけるように、後から後から涙が溢れる。
恐怖と、悔しさと、…惨めな気持ちを乗せた涙。
胸の痛みを堪えるように、わたしは唇を噛む。正面…仗助くんを見るのが怖くて、首を思いきり横に向けて。

「なまえちゃん…!ごめん、おれ…」

仗助くんの息を呑む音が聞こえて、それからすぐに彼は慌ててわたしの上から離れていった。

それでも涙は止まらない。

胸のズキズキも、頭の中の反響も。

「…かえる…」

なんとかその三文字だけをひねり出し、仗助くんの顔も見ずに速足で部屋を出た。
仗助くんが何か言っていたみたいだけれど、言葉はまったく耳に入らない。

わたしは全速力で家に帰り、自分の部屋に飛び込むと、ドアへ背中を預け…ずるずると座り込んだ。

頭がぼぅっとする。

「頭を鈍器で殴られたような衝撃」なんてフレーズを良く聞くけれど、なるほど。こういう感じのことを言うんだろうなぁ。

「…はは…、バカみたい…」

自惚れていたんだ。わたしは。

仗助くんからも話しかけてくれて、学校だけじゃあなくて休日に遊んだり、一緒に勉強したり。
仗助くんと仲良くなれて、ちょっと他の…取り巻きの子たちとは違う関係になれたと思っていた。
友達になれたんだと…思い込んでいた。

『おれはなまえちゃんのこと、友達だなんて思ってねーから』

じゃあ、仗助くんは今までどういうつもりでわたしと接してくれていたの?

内心鬱陶しかったのかな。
でも仗助くんは優しいから、突き放さずにいてくれたのかな。

…本当に、なんて惨めなんだろう…。

ドアに背中を預けたまま、膝を立てて、小さく丸まって。
わたしは家族に心配かけないように、声を殺して泣いた。

明日はまた、いつもどおりに学校へ行けるように、今のうちに全部全部流しておこう。

あそこまではっきりと言われてしまったからには、わたしはもう仗助くんに近づくべきじゃあないんだろうな。

大丈夫、友達は他にもいる。
仗助くんと特別仲の良い康一くんと億泰くんには…ちょっと声掛けにくいけど。

大丈夫。…だいじょうぶ。

「…くちびる…いたい…っ」



end
一旦一区切り。




- 31/67 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ