仗助くんが本気を出した結果2


あの日から、なまえちゃんにずっと避けられている。
なまえちゃんの気持ちも聞かずにあんな…怖い思いをさせちまったんだ。当然だよな…。

すっげー最低なことしたっていう自覚はある。
反省もしてる。

でも、このまま卒業までずっと避けられ続けて、そんで卒業してバラバラになって。
なまえちゃんの中で最低な男のまま終わりたくねーっていう自分勝手なおれがいるんだ。

だからちゃんと謝りたい。
それで許してもらえるかは分かんねーけど、大好きな子にあんな怯えたような、悲しいような表情されんのは…かなりキツイ…。
少しでもまた普通に話ができるくらいには、関係を修復したいんだ。

「(つってもおれ…めちゃくちゃ避けられてるし、そもそもどーやって話しかけたもんかなァ…)」

目の前にいなくても、なまえちゃんはおれを視界に入れた瞬間逃げていく。
かといってそれを追っかけて捕まえるってのも…余計警戒されそうだし…。
康一や億泰に頼んで代わりに呼び出してもらうってのもなぁ…。結局嘘ついてる時点で誠実さに欠けるっつーか…。

億泰じゃあねーけど、考え過ぎて頭痛がしそうだぜ…。

「…ん?」

休み時間、便所から教室へ帰ろうとしているところに…突然チャンスは舞い降りた。
廊下を曲がった少し先にある、見慣れた後姿。

デカい段ボールを二つ重ねて持ち、若干フラフラとした足取りで進んでいる。
ありゃぁぜってー前見えてないな。

危なっかしい。そう思うのと同時くらいに、今なら自然に話しかけられるチャンスだ。って閃いた。

おれは少し速足でなまえちゃんを一度追い越し、グラグラと今にも落ちそうになっている上の段ボールを正面から取り上げた。

「えっ!?」

「運ぶの、手伝わせてもらっていいっスか?なまえちゃん」

「…ひ、がしかたくん…」

「…っ」

久しぶりに近くで顔を見れたことへの緊張なんて吹き飛ぶくらいの衝撃だった。
あの日まで『仗助くん』と呼んでくれていたなまえちゃんの唇から紡がれたのは、まさかの『東方くん』。

…なんだよ、それ…。
もう他人ですって、そういう意味なのか…?

正直本気で泣きそうなのを必死で堪えるおれと、おれから目を逸らして困り顔を浮かべるなまえちゃん。

しかしこのままこうして廊下に突っ立っているわけにもいかない。

おれはなまえちゃんの言葉を待たず、この段ボールの運び先である資料室へと歩き出した。
こっそり唇の端を噛む。

なまえちゃんも、数歩遅れて歩き出し、おれたちは微妙な距離を保ちつつ目的地へと向かう。

道中は二人ともずっと無言で、資料室までの道のりが物凄く長く感じた。

「失礼しま〜す」

「失礼します…」

資料室、なんて立派な名前がついてはいるが、実際は教材倉庫である薄暗い教室だ。
人なんていないのは分かっちゃいるが、一応声だけはかけてドアを開ける。

案の定誰もいない室内に足を踏み入れ、段ボールを適当な位置に置く。

「…え…っと、東方くん、ありがとうございました」

ぺこり、律儀に下げられた頭と敬語が他人行儀すぎて、また胸が苦しくなる。
だが、ショックを受けている暇はない。
そのまま速足で立ち去ろうとするなまえちゃんの腕を掴む。…ただし、極力力を入れすぎないように注意しながら。

「…っ、なんでしょうか」

「ごめん、本当に…頼むからさ、ちょっとだけおれに時間…くれねーっスか…」

「…」

なまえちゃんは今にも泣き出しちまいそうな表情で、結局いいとも悪いとも言ってくれなかったけれど、でも…おれの手を、振り払わずにいてくれた。

それに少しだけ救われた気がして、おれはなまえちゃんの腕を離さないまま勝手に言葉を続けた。

「謝ったくらいで許してもらえると思ってるわけじゃあないけど、でも、この間のことは本当に反省してる。…すみませんでした…!」

「……いえ」

「…せめて、学校で普通に話するくらいは…許してくんねーか…?」

「…え?」

大きく見開かれたなまえちゃんの目が、真っ直ぐにおれを見る。
それだけのことなのに、おれは物凄く嬉しかった。
…嬉しかったのだが、なまえちゃんの反応に若干違和感を感じる。

おれ、何か変なこと言ったか?

自分の口にした言葉を必死に思い出している最中、なまえちゃんが戸惑いがちに口を開く。

「…話しかけても、いいの…?」

「…え…?そんなの当たり前じゃねぇか。むしろおれの方からお願いしてるわけで…」

「でもわたし…友達じゃあないんだよね…?」

「えっ」

混乱しているのか、なまえちゃんはいつの間にか敬語ではなくなっていた。
けれどおれも今混乱している真っ最中で、それについて喜んでる余裕なんて微塵もない。

「だ、だってこの間…友達だなんて思ってないって!そうっ…言ってた…っ!」

若干嗚咽混じりになりつつ突きつけられた言葉に、おれは一瞬頭の中が真っ白になった。

堪えきれずに溢れだしたなまえちゃんの涙が、ぽたぽた床に落ちていく。

その光景に、フリーズしてたおれの頭はなんとか稼働を再開し、自分でも驚くほど速く彼女の言っている意味を理解した。

「ちが…っ!あれはそういう意味じゃなくてッ!」

「…きゃ…っ!?」

緩く掴んでいたなまえちゃんの腕を少し強引に引き寄せれば、油断していた彼女はすんなりとおれの腕の中へ収まってくれた。

頬を伝う涙を自分の制服に吸い取らせるようになまえちゃんの頭をぎゅっと抱きしめる。

「そっか…そうだよな…おれ、よく考えたら一番大事なこと、なまえちゃんに言ってねーんだ」

「じょ、じょうすけくん…?」

「なまえちゃん、おれはさ…なまえちゃんのこと、ただの友達だなんて思えねーほど特別なんだ」

「…?」

「おれは、なまえちゃんと友達以上になりたいんだ」

「友達以上…って、し、親友ってこと…っ?」

「ぐ…っ、嬉しそうなのはかわいいんだけど、ちょっと心折れそうかも…」

「えっ」

「あーもうッ!なまえちゃんの鈍感ッ」

「…ご、ごめんなさい…!」

「おれは、なまえちゃんとコイビトになりたいんだよ」

「…え?」

あーあ、よりによってこんな学校の資料室なんかで言うことになるとは…。

おれ的には結構アタックしてたつもりだったのに、なまえちゃんはまったくそんな気がなかったみたいだし…多分フラれるんだろーなー…。

でも、なんつーか…すっきりしたぜ…。

おれは抱きしめていたなまえちゃんを(めちゃくちゃ名残惜しかったけど)そっと離す。

なまえちゃん的には突然の告白だ。

きっと今、彼女は混乱中だろう。

そう思って黙ったままのなまえちゃんを見れば、その顔は今まで見たことがないくらい真っ赤だった。

…おいおい、そんなカオされたら期待しちゃうってーの。

「う、あ、えっと…!ご、ごめんなさい…」

あー、ですよねぇ〜…。

ほんの少し抱いた淡い期待はすぐに打ち砕かれ、思わず苦笑が漏れた。

「こっちこそ、急にごめんな」って、なまえちゃんの前ではせめてかっこよくいたかったけれど、おれがそのセリフを口にする前に、なまえちゃんは続けて言葉を紡いだ。

「わたし、今まで友達としてしか仗助くんを見ていなくて…だから、ええと…これからはお、お付き合いを前提にお友達で、いさせてもらうっていうのは…、」

ダメでしょうか…。
もう最後の方はほとんど消えちまってたけど、此処はおれたち以外誰もいない資料室。

おれにはバッチリ最後まで聞こえた。

「…グレート。上等だぜ」

まだまだなまえちゃんの中では『お友達』カテゴリにいるらしいけど、意識してくれるって。そういうことだよな。

だったら、そいつはワンランク上にいけたってことだ。

焦る気持ちがないっつったら嘘になるけど、それでも今度は慎重に。
大事なことは何度でも伝えて。

まずはもういっこ上のカテゴリにいくために、本気でアタックしていこうじゃねーか!



end




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