花京院くんと同じものを好きになる
◇平和な高校生。
好きな人の“好き”は自然と気になってしまうし、それを自分も好きになりたいと思える。
昔は本といえば専ら漫画本だったわたしが、こうして文字がずらりと並んだ小説を読むようになったのも、そういう理由。
好きな人がよく本を読んでいて、その人が好きな作家さんを知って。
ともすればその本を読もうと思うのは、恋する乙女なら至極当然のことだと思う。
本を読む理由としては些か不純かもしれないけれど、ちゃんと本屋さんで買ったし、好きな人との共通の話題もできる。
それに、それこそ切欠は不純なものだったにしろ、読むにつれて本当にその本や作家さんが好きになり、今では純粋なファンの一人だ。
今日はそんな作家さんの新刊小説が発売される日。
放課後、いつも一緒に帰っている友達に断りを入れ、家とは逆方向の本屋さんへ向かう。
「いらっしゃいませ」
店内に入ってすぐ、正面のところにある新刊コーナーへ目と足を向ける。
「あ」
そこには、とても見覚えのある後ろ姿があった。
思わず心臓が強く脈打つ。
そうか、好きな作家さんの新刊発売日だもん。
わたしと同じようにチェックしてたんだ。
計算していたわけじゃあないけれど、偶然、というのも少し違う気がする。
けれども予想外に学校以外で会うことができたのは素直に嬉しい。
緊張するけれど、せっかくのチャンス。
ドキドキする胸をぎゅっと押さえ、控えめに深呼吸をする。
「花京院くん」
「はい?…あ、みょうじさん」
「やっぱり花京院くんもこの新刊、買いに来たの?」
「ええ。丁度今日が発売日だって、今朝思い出したんです。みょうじさんもこれを買いに?」
「うん。ふふっ、わたしもチェックしてたんだよね」
花京院くんが持っているものと同じ本を一冊手に取り、簡単にパラパラと捲る。
「今回のは前巻よりちょっと厚いんだね」
「30ページくらい多いみたいですよ」
「わ、凄い!ページ数まで覚えてるの?」
「前のは特に好きで読み込んでいたので、なんとなく記憶にあったんです」
「あー、面白かったもんね。ちょっとホラーチックでドキドキしたところもあったけど」
花京院くんと言葉を交わす緊張は変わらずにあるけれど、好きなことについて話しているから会話はぽんぽんと進む。
凄く楽しい。
…もっと話していたい。
だけどいつまでも陳列棚の前に居座るわけにもいかないし、しつこくしてしまって嫌われてしまっては意味がない。
大変名残惜しいけれど、タイミングとしてはそろそろ…潮時かな。
「また読み終わったら語り合おうね」
それじゃあ、ばいばい!
そう言って自然にレジへ向かおうとした。
しかし思いがけないことに、花京院くんが「待って」と声を発した時には、わたしは正直自分の願望が幻聴として聞こえてしまったのかと思った。
「僕ももう会計をしたら帰ろうと思っているんです。よかったら一緒に帰りませんか」
もう少し話ができたら嬉しいな、と。
…なんて。
言葉を続けた花京院くんが少し照れたように見えたことが例えわたしの幻覚だったとしても、同じことを思ってくれていたということがあまりに嬉しくて舞い上がったわたしには…『全力で頷く』以外の選択肢は存在するはずもなかった。
end
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