仗助くんとクリスマス直前


昼の一番気温が上がる時間帯とはいえ、流石に屋上や中庭でメシを食うのは寒い。
普通に教室で、ってのも悪かないが、おれたち…主におれと億泰は色んな意味で目立つから、できれば落ち着けるところがいい。
となれば、おれのクレイジーダイヤモンドの能力が活きてくる。
って、まぁ鍵が掛かってる空き教室の鍵を壊して直してしてるだけなんだけど。

「仗助、そういやおめー今日も女子からクリスマスの予定聞かれてたろ」

メシを食い終わり、校内の自販機で買った缶のお茶を飲んでいると、億泰がそれはもう恨めしそうな目でおれを見てきた。
クラスも違うってのに、コイツは意外とそーいうことに敏感っつーか、目ざといっつーか。

「あー、まあな」

「流石仗助くん。相変わらずモテモテだね」

「そういうお前は由花子とデートなんだろ、康一」

「えへへ、まーね。でも仗助くん、今のところまだ誰とも約束していないみたいだけど…何か予定とかあるの?」

「いや、別にそういうわけでもねーけど…」

「チクショー!予定もねえのに断りまくってるコイツのどこがそんなにいいんだよ!?」

「ばっ、揺らすな億泰!茶が零れんだろうがッ!」

「あっ!仗助くん、僕たち次は体育だから、そろそろ行かないと!」

「おお、そうだな。じゃあ行くか」

怒りながら泣く億泰を余所に、おれは缶の中に残っていた残りのお茶をぐっと飲み干し、立ち上がった。
億泰もまだぶつぶつ恨み言のようなことを言ってはいるが、おれたちと一緒に教室へと向かうため、弁当を片して立ち上がる。

「(そんなに羨ましいもんかねぇ…)」

別に、女のコに興味ないってわけじゃあねーんだ。
おれだってもう高校生だし、『好き』って言われたら素直に嬉しい。
でもなんつーか、気の合う仲間と一緒に他愛ない話をしたり、たまに馬鹿やったり。
そういうのが楽しくて、誰かと付き合ってみようかっていうのは…あまり考えたことがない。

だから好きでもない女子と軽々しく約束はしない。
期待させるのも悪いし、本当に好きなコができた時、軽い男だと思われたくないから。

「ドラァッ!」

入った時と同じように、ドアの鍵をぶっ壊して廊下に出る。
しっかり鍵を直せば問題はなにもない。

「よし…と、おれはこの缶捨ててから行くからよ。康一は先更衣室行っててくれ」

「うん、分かった。じゃあ先に行ってるね」

康一と億泰の背中を見送るまでもなく、おれは空き缶用のゴミ箱へ向かう。

5限の体育はちょっとしんどいけど、眠くならないって点では嫌いじゃあない。

「あ、仗助くん」

「ん?…ああ、なまえ」

カコン、と空き缶がゴミ箱の中に落ちたのと同時くらいに、背後から名前を呼ばれてすぐに振り返る。

声の主は、“気の合う仲間”の一人であるなまえだった。

おれと同じように空き缶を捨てにきたのだろう。
片手にココアの缶を持っている。

「なまえ、メシの時にココア飲んだのかよ。そんなの億泰くらいかと思ってたぜ」

「いやいやいや、今日はパンだったからだよ?流石にお米の時はお茶かストレートティー一択だよ!」

「それ、既に一択じゃねーじゃん」

「…あ、確かに」

缶を捨てながらハッとした表情を浮かべるなまえに、おれは思わず吹き出して笑う。
決して馬鹿にする意味じゃあなく、おれはなまえの計算されていない言動が好きだ。
思ったことや、浮かんだことがそのまま言葉や表情に表れている感じ。

「もう、そんなに笑わなくてもいいのに」

「ははっ、ワリーワリー。でもお前のそういう抜けたとこ、おれはけっこー好きだぜ」

「…っ」

おれが笑い過ぎて拗ねたのか、なまえはおれから顔を逸らすように俯いてしまった。

もともとなまえと目を合わせるためには彼女が少しおれを見上げるかたちになるから、彼女が俯いてしまったらおれからはその顔が見えない。
流石に悪かったかなと思い、おれは宥めるように少し下にあるなまえの頭を撫でる。

その時、撫でたことで髪の間から覗いた耳が、みるみる赤く染まっていくのが見えた。

「(…あれ?)」

その意味が分からないほど、おれは馬鹿でも鈍感でもない。
もしかして。そう思った瞬間、おれの心臓が急にバクバクでかい音で鳴り出したのだって、多分、きっと。いや、絶対に。そういう意味、だよな…?

「…なぁ、なまえはクリスマス…なんか予定あるか?」

「…え」

おれの唐突な質問に驚いて上げられた顔は、耳と同じでやっぱり真っ赤で。
ちょっと泣きそうな、なんだか情けない表情だった。

そんな顔のまま、多分必死で平静を装おうとしてるんだろう。

「特にない、けど…」

返されたその回答は、少し震えて聞こえた。

一緒に過ごさないか、って言ったら、今度はどんな顔をするんだろう。
でもその言葉を発する時、おれの声も震えてしまいそうな気がする。



end




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