ポルナレフが転職を勧める


◇3部といいつつ背景を特に考えておりません。現パロか旅後か。


「仕事なんか辞めちまえ」

そんなになるくらいならよ。そう続けられたその言葉は、決して罵倒の類ではない。
純粋になまえを心配しての言葉だ。

「…それも、少しは考えたんだけれど…やっぱり、転職って勇気が要るっていうか…踏ん切りがつかなくって」

手持無沙汰ななまえの手の中で、折り曲げたり伸ばされたり。錠剤を取り出されたPTP包装シートがぐにぐにと形を変える。
胃酸の分泌を抑制するその薬は、ドクターストップにより出社停止となった2日前から飲み始めたもの。
ドクターストップなんて大袈裟な、となまえは思ったし、そこまで自分が仕事に対するストレスを溜めているとも思っていなかった。
しかし、身体はそうではなかったらしい。
心と身体は密接な関係にあるとはよくいうが、やはりイコールではない。ということなのだろう。

「続けるのも勇気、辞めるのも勇気…なんて言うけどなぁ…人間、健康第一。健康あっての自由だろ」

「うん…」

とても真剣な表情と声。
ポルナレフは、普段に見せる軽い調子ではなく、まるでなまえへ言い聞かせるように優しい口調で言葉を続ける。

彼は案外と聞き上手な男であり、今までもなまえの愚痴や弱音を聞いては明るく励ましてくれていた。
今までにポルナレフが与えてくれたのは、なまえの背中をそっと後押しするような、自信を持たせてくれるような。そんな言葉たち。

けれど、今日の彼は違った。

「それに、これはただの我儘だけどよ…俺はなまえが病気になるような仕事、あんま続けてほしくねーな」

「ポルナレフ…」

変わらず真剣な面持ちで告げられた彼自身の想いに、なまえは少しだけ驚いた。
励ますでもなく、導くでもない。
『続けてほしくない』という、彼自身の想いに。

「ありがとう、心配してくれて」

「おいおい、当たり前のことに礼なんか言うなよ」

「うん、ありがとう」

なおも礼を言うなまえに、ポルナレフは小さく笑った。
それは少し照れたような、苦笑のような。

「自分のやりたいこととか、現状とか。色々天秤にかけて決めてみるよ」

「ああ。…あ、そうだ」

「なに?」

「次の就職に迷ったら、俺のところに永久就職、って手もあるぜ」

「え…っ!」

口調こそおどけたような音ではあるものの、彼の表情は優しく、柔らかいものだった。
なまえは目を見開き、自分の頬が熱くなっていくのを感じた。
らしくない、と思ったのは、彼に対してか。それとも自分に対してか。
なまえは恥ずかしさを誤魔化したくて、わざと冗談めかして答える。

「も、もう、ポルナレフったら!そんなにわたしのことが好きだったなんて知らなかったよ」

「まぁ、そうかもな。お前鈍いし。確かに面と向かって言ったこともなかった気もするし」

「え…、え…?」

待って、それじゃあまるで…。
その先を言葉として浮かべるよりも前に、なまえの心臓はどんどん脈打つ強さを増していく。
外までその音が聞こえるのではないかと思う程に。

「好きだぜ。軽口じゃあなく、マジの意味で」

心臓の音がこんなにもうるさく耳に響いているのに、優しい彼の声は、それでもはっきりと届いた。

転職も悪くないかもしれない、なんてことが頭を過った。



end
拍手企画にて頂きました台詞を使わせて頂きました。




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