承太郎と写真を眺める


◇エジプト、某ホテルにて。


「承太郎って、全然笑わないよねぇ」

「あ?」

ベッドの上にペラペラと写真を並べていたなまえが、ぽつりと呟いた。
おれは花京院に借りた本から隣のベッドへ座るなまえへと視線を向けたが、相変わらずなまえは写真を見つめている。

「…そうでもねえだろ」

「えー、だって今整理してる写真に一枚もないよ。承太郎が笑ってるの」

「…」

「それに比べて、ポルナレフはいい笑顔が多いや。…ふふっ」

写真の淵を撫でるようにそっと指で触れるなまえは、とても楽しそうに笑った。
それが何故だか少し腹立たしいと感じたのは、あいつがこちらに目もくれないせいか、それとも別のヤローの名前が出たせいか。原因はいまいち解りかねる。

そんなことを考えていると、なまえがようやくこちらに顔を向け、ついでに一枚の写真を見せてきた。

「これ、わたしのお気に入りの一枚なんだ」

「いつの間に撮ってんだ、お前は」

「へへー」

見せてきた写真に写るのは、おれと花京院、そしてポルナレフが肩を組んでいる写真。
…正確には、ポルナレフがおれと花京院の肩に腕を回し、なんだったかくだらねえことを言っているシーンだが。

「なんかこうやって見るとさ、兄弟みたいに見えていいなーって。まぁ見た目はみんなまったく違うけど」

「兄弟、ね…」

ずっと手に持っていた本を閉じ、ベッドの上に置く。
おれが立ち上がった時には、なまえは再び視線を並べられた写真へと落としていたが、今度はおれも同じものを見る。

なまえが座るベッドに腰掛けると、スプリンクが小さく軋んだ。

「お前が写ってるのは極端に少ないんだな」

「まぁ、基本わたしが好きで撮らせてもらってるからね〜」

並べられた写真はそこそこの数があったが、なまえが写っている写真はほんの数枚だった。

その数枚はなまえが撮ったのであろう他の写真と違い、どこかぎこちないような、自然体ではないと感じるものがほとんどだった。

それは、恐らく事前に写真に“撮られる”ことを知っているからなのだろう。
なまえの撮った写真は、概ね不意打ちのようなものが多い。
その証拠に、ところどころブレているし、先程なまえが見せてきた『お気に入り』だというそれも、被写体の一人であるおれが撮られていたことを知らなかった。

「写真自体を見るのも好きなんだけれど、写ってるシーンのあれこれだとか、この後こんなことがあったなぁとか。そういうのを思い出すトリガーになってくれるから好きなんだよね。まだ全然技術もないし、やっすいインスタントカメラだけど」

なまえが自分のすぐ隣に置いていたインスタントカメラを両手で持ち、はにかむように笑う。
その表情は、数少ないなまえが写るどの写真よりも鮮やかで、飾り気のないまさに自然体だ。

「この旅が無事に終わったらさ、全部笑い話にしようよ。キツかったけど、楽しかったよなって」

「…ああ、そうだな」

並べられた写真に写る面々は、笑っていたり、時に何かを追いかけ回していたりと、そこから騒がしい声が聞こえてきそうなものばかり。

死のリスクは常について回ってるってのに、こうして見りゃあ割りと気を抜いてる時も結構あるじゃねえかと実感する。

「あっ!承太郎、今…すっごいいい顔だった…!わー、撮ればよかった。もったいない!」

「ったく、油断も隙もねえな」

『楽しかった』。
そうこれからも、ずっと先も。
この旅を思い出した時そう思えるように、おれたちは明日も命がけで旅をする。



end




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