わたしの知ってる承太郎くんと違う


近所に住む3つ年下の男の子は、近くの公園で何度か遊んであげたらそれはそれはよく懐いてくれた。
一人っ子だったわたしは弟ができたみたいでとても嬉しかった。

当時の彼…承太郎くんといえば、身体はあまり大きくなかったけれど、正義感が強くて、とてもハキハキとした子だった。
そして、笑った顔がとてもかわいかったのをよく覚えている。
わたしも幼いながら、ああ、満面の笑顔というのはこういうものなんだろうなぁ。なんて思ったものだ。

『なまえお姉ちゃんはおれが守るからね!』

なんの時だっただろうか。
虫が出た時だったか、それとも上級生が絡んできた時だったか。

承太郎くんがわたしを庇うように前に立って、そして安心させるようにちょっとだけ振り向いてそう言ったんだ。

あの時のわたしは、それこそ大事な弟をわたしが守らなくちゃいけない!みたいな気になって、彼の手を引いてその場を退散したんだけれど…今にして思えば、随分とかっこいいシーンだったんじゃないだろうか。

「いや〜、今だったらほれちゃうよね〜…っく」

「おい、いい加減飲み過ぎだぜ」

「お姉ちゃんは傷心なの。今夜くらい付き合ってよ」

「…やれやれ」

今や高校も卒業間近となった承太郎くんは、まぁなんというか見る影もない。
大きくなかった身体は大きすぎるくらいの体躯になったし、口調もずいぶん荒くなった。
笑顔なんて、最近めっきり見ていない気がする。

…でも、相変わらず仲良くはしてくれてるんだよなぁ。
こうやって、フラれたわたしのヤケ酒に付き合ってくれるくらいには。

「承太郎くんもさぁ、ハタチ過ぎたら一緒に飲もうね。おねーさんおごってあげちゃう」

「…おれまで酔っちまったら、誰があんたを無事に送り届けんだよ」

「ええ、わたしそんなべろべろにならないよ〜」

「どの口が言ってんだ、この酔っ払い」

「うわー、信用なーい!あはははっ」

承太郎くんはちびちびウーロン茶を飲みながら、わたしが適当に頼んだおつまみを食べていく。
ガクセー服を着ている時には完全に不良のそれで、煙草なんかも吸っちゃっているくせに。、わたしといる時には煙草も吸わないし、お酒も飲もうとはしないんだよね。

「…あーあ、最近ほんと、ろくなことがないんだよ…。彼氏には浮気された挙句フラれたし、バイト先に入ってきた新人の子はなーんかわたしのこと気に入らないみたいでさぁ…ことあるごとにつっかかってくんの」

ま、人間好き嫌いあるのは分かるけどね…。呟いた声はビールの入ったグラスの中でくぐもって、ちゃんと言葉にできていたのか微妙だ。

だけどももうそんなことはどうでもいいくらいぼーっとして、眠たくて。

頭が自然と前に倒れていくものだから、逆らわずに腕を枕にテーブルへ突っ伏す。

「…うー…、なんか…すごいつかれた…。承太郎くん、わるいんだけど…たくしー…」

よんで、まで言えたのかどうか。
でも、彼なら大丈夫だろう。
そんな謎の安心感から、わたしは落ちるように、そのまま意識を手放した。



次に目が覚めた時、身体がひどく怠かった。

どうして、なんて思うまでもなく、ああ、飲み過ぎちゃったなー、とぼんやり後悔した。

身体も怠いし頭も痛い。正直なにもやる気になんてなれなかったけれど、とりあえず今の時間を把握したくて、枕元にあるはずの目覚まし時計を手探りで探す。

だけど、あるはずの付近をいくら探ってみても、いっこうにそれは見当たらない。

「…うー…」

仕方なく布団から上体を起こして、ほぼほぼ閉じていた目を擦る。

ぱちぱちと何度か瞬きをすれば、暗いながらも辺りの様子が少し見えるようになってくる。

「…え?」

ココ、何処…?

寝起きの頭ではいまいち処理が追い付かず、暫くわたしはフリーズしてしまったことだろう。
まったく見知らぬ場所。なにが、どうして。

記憶を必死に遡ってみても、承太郎くんと飲みに行って暫く後からの記憶があやふやだ。
お酒を飲んでいたし、どこまでが現実だったのかいまいち判断しかねる。

「そ、そうだ…承太郎くん」

部屋の中を見回しても、承太郎くんの姿は見えなかった。
ようやく背中に冷たい汗が流れ始める。

彼はどうしたのだろう。
此処にいるのだろうか?安否は?
何か知っているだろうか。それとも、無関係だろうか。

震える足を叱咤して、なんとか布団から起き上がる。
わたしが冷や汗をかいていることも原因の一つだろうが、どうもこの部屋は湿っぽい気がする。

手探りで手を着いた壁は妙にひんやりとしていて、少し不思議な感触だ。

ガチャッ

「きゃ…ッ」

突然扉が開き、わたしは思わず短い悲鳴をあげ、その場に頭を抱えて蹲ってしまった。

「…なまえ、なにやってんだ」

「……え…、じょ、じょうたろう、くん…?」

そこには、薄暗い灯りに照らされた承太郎くんが立っていた。
蹲るわたしを不思議そうな顔で見下ろしている。

その手には水のペットボトル。

「おら、水でも飲んで落ち着け」

「え、…あ、りがと…」

完全に腰の抜けてしまったわたしに、承太郎くんは屈んで蓋を緩めたペットボトルを差し出してくれた。

わたしもそれを差し出されるまま受け取り、口をつける。

緊張していたからだろう。
一口喉に流し込むと、思っていたよりも随分喉が渇いていたようで、結局半分ほどは飲み干してしまった。

「落ち着いたか」

「うん、ありがとう。…ねぇ承太郎くん、ここって…、」

「ああ、おれしか知らない地下室…まぁ、秘密基地みてぇなもんだ」

「…秘密基地?」

「ここなら、もう誰にも傷つけられねぇぜ」

「えっ」

どういうこと?なんて聞く前に、承太郎くんはわたしの頬に片手を添え、親指で唇を撫でた。

そして、さも愛しそうに。優しく微笑んで言うのだ。

「なまえ、あんたはおれが守ってやるよ」



end




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