仗助くんの噂


「そういえばさ、仗助くんに彼女いるって知ってた?」

昼休みのざわつく教室。
色々な雑談をしながらお弁当を半分ほど食べ終えた頃、目の前の友人が思い出したようにその話題を切り出した。

「え?…知らない。そうなの…?」

「なまえでも知らないかぁ。ほら、もうすぐクリスマスでしょ?それを前にあわよくば、って告白する子が多いのよ、今」

「ああ…なんとなく分かる」

「それで、仗助くんに告白した子がね、『彼女がいるから』って断られたらしいの。一人じゃあなくて、何人も」

逆に、何人にも告白されてるんだ。すごいなぁ。
一旦動きを止めたお箸を再び動かしながら、友人の話を聞く。

仗助くんとはお友達だし、結構仲良くしているつもりだったけれど、まだまだ知らないことだらけだ。
少し、胸がチクッとした。

噂話が好きな友人は、どうにもその彼女さんが気になるらしい。

わたしも、気にならないといえば嘘になるけれど…でも、もし仗助くんが知って欲しくないことだとしたら。
そう思うと、いくらお友達でも本人に聞いてみようか、という気持ちにはならなかった。


仗助くんとは中学からの付き合いだ。
幼馴染ってほどじゃあないけれど、家が近所だったし、お互いの家族だって知っている。

きっと、そのうち分かることだろう。

だから今はそれよりも、自分の身の振り方を考えなくては。
午後の授業はいつもぼーっとしがちだけれど、よりにもよって体育でぼーっとしてしまったわたしは、顔面でボールをキャッチするというファインプレーをしてしまった。

すごく痛くて、ちょっぴり涙が出た。ついでに鼻血も出た。


「なまえ、おめー顔面でボールキャッチしたんだって?…ぶはっ、くくく…っ」

「…仗助くん、笑うなら盛大に笑ってよ。余計傷つくよ」

鼻にティッシュを詰めた無様なわたしを、わざわざ隣のクラスから笑いにやって来た仗助くんに対して批難するような目を向けたとしても、わたしは悪くないと思う。

笑いを堪えようとしているのか、お腹に手を当てて下を向いている。けど、その時点で既に隠せていないことに気づいてほしい。

「もー、わたしを笑いに来ただけなら充分でしょ!教室戻りなよ」

「まぁまぁ、そう怒んなって!本題はそれじゃあなくってよ〜、数学の教科書貸してほしーんだよ」

「ええ、またぁ?昨日も古文の資料借りに来たよね」

「お願い!なまえちゃんだけが頼りなんだよ〜!今度なんか奢るからよぉ〜」

さっきまで笑いまくっていたわたしに、今度は頭を下げて両手を合わせる仗助くん。
何かお願い事をする時、彼は決まってわたしを「ちゃん」付けで呼ぶ。
人気者の仗助くんにとって、わたしだけが頼りだなんて嘘なのに、まったく調子いいんだから。

「しょうがないなぁ…。今日はもう数学ないからいいけど、明日には返してね」

「グレート!さっすがなまえちゃん!明日と言わず、HR終わったら返しにくっから、一緒に帰ろうぜ」

「えっ」

何気なく言われた言葉に、わたしはすぐに返事ができなかった。
だって、もし例の…彼女さんが同じ学校じゃなくても、同じ杜王町の人なら見られてしまう可能性があるんじゃないか。

そういうこと、気にしないのかな。
…わたしだったら、嫌だなぁ…。

「あれ、もしかしてなんか予定あんの?」

「ううん、ないけど…」

ぐるぐると考えて返事をしないわたしに、仗助くんは小さく首を傾げてもう一度声をかけてくれた。
その声にようやくハッと我に返り、なんとか返事をする。

…正直に「ない」と言ってしまったけれど、よかったんだろうか。

「じゃ、いい子で待っててな」

「ちょっ!」

「教科書サンキュな〜!」

頭をガシガシと撫でられたかと思うと、彼はわたしが文句を言う間もなく数学の教科書を持った片手を上げて颯爽と去ってしまった。

その風貌に似合わないくらい爽やかな笑顔を向けられてしまったら、もうわたしには何も言えない。

次の授業が始まる前にと鼻からティッシュを引っこ抜けば、鼻血は既に止まっているようだった。
時間が経ったおかげか、気づけば顔面の痛みもない。

…でも、なんでかなぁ。
魚の小骨が喉に引っかかったような痛みが、昼休みからずっと胸に残っている。

「はぁ…」

理由の分からないため息をかき消すように、始業のチャイムが鳴り響く。
次の授業もぼーっとしてしまいそうだ。



To be continued




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