仗助くんの噂2


仗助くんの噂を聞いてからというもの、わたしは少し彼との接し方を改めることにした。

話かけられれば応えるし、教科書や辞書を借りにくれば貸してあげる。
宿題を見せてあげるのがたまにだけなのは前からだけど、でも、極力わたしからは話しかけないようになった。

少し前までは、くだらないことを彼に話しては共感してもらい、一緒に笑っていたけれど。
彼女がいると聞いた途端、なんとなくそんな些細なことさえ悪いことをしているような気持ちになって胸がチクチク痛むようになったから。

だから、こうやって少しずつ、少しずつ関係が浅くなっていって、そのうち挨拶は交わす程度の同学年、みたいなポジションになることを考えていた。

…けれど今のところ、まだそのポジションには辿り着けていない。

まぁ、もともとお友達だったし、別に喧嘩をしたわけじゃあない。
わたしが話しかけることを控えるようになっただけだ。
わたしだけが。

「なぁなまえ、…おいって!聞いてんのかよ?」

「えっ、ああ、うんそうだね。それは難題だね」

「…お前、ぜってー聞いてなかっただろ。相槌が話題にかすりもしてねぇよ」

「虹村くんが期末試験をいかに赤点なく通過するかって話でしょ?」

「それけっこー前の話題な」

「ええ、ごめん。そういえば瞬きが長かったかも…」

「つまり寝てたってことかよ?!」

「あはは、ごめんて。わたしだって期末の勉強頑張ってるんだもん。勘弁してよ〜」

「ったくよ〜…」

唇を尖らせて拗ねる仗助くんに、本当はキミのことを考えててぼーっとしちゃったんだよ、と言ったらどんな顔をするんだろう。

仗助くんとおしゃべりするのは楽しい。それは今も同じだ。
…でも、楽しい気持ちの一方で、もやもやとした気持ちがどんどん膨らんでいく。

どうして仗助くんは、今でもこうしてわたしに平然と話しかけてくるのだろう。

本人曰くというのもあるが、わたしから見ても彼は純愛タイプというやつで、一人のことを想ったら裏切るようなことはしないし、極力傷つけるようなことはしない人…だと、思う。

例え彼女さんが近くにいなくても、こんな軽々しく異性との付き合いを続けるだろうか。

…もしかしてわたし、異性として認識されてないとか…?
それはそれで無神経だぞ、東方 仗助…ッ!

わたしばかりが色んな方向に思考を巡らせて数日、仗助くんにまつわる新たな噂を耳にした。
今度は友人からではなくたまたま聞こえたのだけれど、その内容はとんでもないものだった。

『東方 仗助の彼女は、みょうじ なまえではないか』

根も葉もない噂に、思わずわたしは目を見開いた。

彼女?わたしが?仗助くんの?

その噂がまったくのデマであることを、わたしが一番知っている。
こんなにも悩んでいるというのに、なんて勝手なことを。そう考えると、怒りすらこみ上げてきた。

けれど…こみ上げてきたのは、怒りだけではなかった。

わたしの目から、ぼろぼろと涙が零れて止まらない。

すぐに近くのトイレへ駆け込んだので、多分誰も気がついていないはずだ。
気がついていても、あまりに突然のことだったから、目にゴミが入っただとか…きっとそんな風に思ってくれるだろう。

わたしにとっても、あまりに突然だった。

僅かに聞こえただけの噂話。
その噂の内容を、わたしの脳は勝手に想像してしまったのだ。

仗助くんと恋人になった、自分を。仲睦まじく寄り添う光景を。

でも現実は違う。
彼の隣にいるのはわたしじゃあない。
顔も名前も分からない誰か、別の女性。

そう考えて涙が止まらなくなった。
それが何故か。分からないほどわたしは鈍感ではない。
…いいや、充分鈍感だったのだろう。
逆に、今更この気持ちに気がつくなんて。

好きだと気がついた時にはもう、とっくに失恋しているのだから。



To be continued




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