承太郎にキスがしたい


◇3部といいつつ数年後。


承太郎はとにかく背が高い。
おじいちゃんであるジョースターさんも相当背が高かったし、きっと代々背の高い家系なんだろう。

そんな彼が、今ソファに凭れて眠っている。

「珍しい…」

学会の資料なのだろう書類が大量にテーブルに広がっていて、それは承太郎の手にも握られている。

自分の持っていたコーヒー入りのマグカップをテーブルの上に置く。
できるだけ静かに、小指でワンクッション。

「(そーっと、そーっと…)」

承太郎へと慎重に手を伸ばして、被ったままの白い帽子をゆっくりと取る。
ぷはっ、と思わず止めていた息を吐き出して、そのまま帽子をソファの端に置くと、わたしは眠る承太郎のすぐ前の床へ座る。

「(ふふふっ、かわいい)」

少し見上げれば、眠る承太郎の顔が見える。
かっこいいけれどちょっと威圧感のあるその顔も、今はかわいいなんて思える。
本人に言ったら、きっと眉間に皺を寄せてしまうんだろうけれど。

暫く承太郎の寝顔を堪能して、ブランケットでも掛けてあげようと立ち上がる。
そこで思う。
いつもは遥か高い場所にあるその顔が、わたしの視線の下にある。

ごくり。

一歩、わたしは踏み出した。

それから、吸い寄せられるように、ゆっくりと顔が近づいていく。

唇が触れ…、

ぱちっ。

「…っ!!!!!」

う、うわあああああああ!!

わたしは声にならない叫びをあげ、思いっきり後ろへ飛び退いた。
今までの戦闘経験の甲斐あって、咄嗟に本気で飛び退いたものだから、相当の距離を空けてしまった。

OH!NO−っ!!

なんてタイミングで目を覚ますのさ承太郎のバカっ!いや、わたしが悪いんですよね、わたしのバカっ!ていうかこれだけ飛び退いたら余計に気まずいじゃないどうしよう!!

(余談だと思うけれど、この間多分1秒未満)

わたしが内心転げまわっている間に、承太郎は持ったままだった書類をテーブルに置き、わたしが置いたコーヒーを一飲み。
そして立ち上がり、長い脚で二歩。つまりわたしの前にやって来た。

わたし今、蛇に睨まれたカエルの気持ちというものが初めて分かった。

いや、実際承太郎は睨んでるわけじゃあないんだけれど。
でももともとの威圧感というかオーラというか!

「なまえ」

「はいっ!」

「そういう事は起きてる時にしろ」

「はいっ、ごめんなさい!…え、」

言われた言葉に反射的に返事をしてしまって、でもその言葉は意外なものだったことに気がついて。

思わず聞き返そうと顔を上げると、すかさず唇にあたたかくてやわらかい感触。
それから、少しだけ苦いコーヒーの味。

うわあああああああ!!

あまりの恥ずかしさに、わたしは再び声にならない叫びをあげ、今度こそ転げまわるのだった。


(起きてる時じゃできないんだよ)(色んな意味で)



end




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