ああ、我が愛すべき愚弟よ


◇SSSの『承太郎の兄貴』シリーズと同設定兄貴。名前変換なし。ひたすら兄貴の独り語り。


俺は弟ができた時、とても誇らしかった。
自分が『兄』になるのだと。『長男』になるのだと。そう思った時、幼いながらに責任感を抱いたものだ。

俺は、弟を、そして家族を守るために、強くなろうと思った。

幸いなことに、俺は体格にも恵まれていたし、勉強も嫌いではなかった。
だから何かにつけては兄貴ぶって弟を先導していた。
運動では少しレベルの高いテクニックを見せてやったり、勉強を教えてみたり。

しかしまぁあいつも俺に似たところがあって、運動も勉強もすぐに吸収してしまうものだから、俺は追いつかれないよう努力するのに必死だった。

そんなに張り合う必要あるか、と言われればそれまでだが、そこは俺のプライドの問題だから仕方がない。こういう性格なんだ、俺は。

やがて中学を卒業する頃、俺はアメリカへ行くことを決めた。

前々から祖父の不動産業には興味があったし、それならばと祖父からも声をかけられていた。
両親からはまだ早いのでは、ということも言われたが、色々なことを吸収しやすい時期に行くことこそに意味がある。大学からでは遅い。そんな俺自身の考えを示し、俺は16で渡米した。

最初こそ様々な苦労はあったが、それも全て俺の知識と経験に加算されていくのだから、それなりに楽しんで取り組むことができた。
家族とも連絡はとっていたし、寂しいなんて感じる暇もないほど充実した日々だった。

数年後、弟が高校へ入学した際の写真が、母からの手紙と共に送られて来た。

「でかくなったなぁ」なんて、まるで父親のような言葉が零れてしまうほど、弟は成長していた。
その時点で、既に1年以上は弟と会話すらしていなかった。
そのうち、時間ができたら一度日本へ帰ろうか。そんなことも思ったが、それから数年経っても結局俺が日本へ帰ることはなかった。

そうこうしている間に時は流れ、異変が起き始めた。

祖父に幽波紋が発現したのだ。

祖父も当然当初は戸惑っていたが、同じ能力を持つ人間と知り合い、色々なことが明らかになっていった。
祖父だけが知っていた100年前の因縁のこと。
母や弟、そして俺にも幽波紋が発現する可能性があること。
そして、幽波紋は害になり得るということ…。

その時はまだ幽波紋が視えてすらいなかった俺には、理解し難い話ばかりだった。

しかし確かにその『力』が存在することは、祖父と、祖父と同じ能力を持つ人のおかげで納得できた。

更に少しした頃、俺にもぼんやりとその幽波紋のカタチを視ることができるようになった。
しかし、俺には能力といえるようなものは何もなかった。

ほどなくして、母から祖父へ連絡があった。
祖父は言葉どおり日本へ飛んで行き、俺はアメリカに残された。

「スージーQを頼んだぞ」と言われて。
ただ、それだけを言われて。

祖父が日本へ向かった理由を知ったのは、それから数日後だった。

弟に幽波紋が発現した、と。
幽波紋のことをまだ知らなかったあいつは、「悪霊に取り憑かれた」と言って牢獄に引き籠もっていたそうだ。

まったく、笑っちまうよな。

どうして一人でなんとかしようと考えるんだ。
悪霊だろうがなんだろうが、そんなもん一人でどうにかできるわけがねぇだろうに。
俺が近くにいたら、力ずくでも一人になんかしないのに。

どうして。
…どうして、俺はあいつの側にいないんだ…。

そんな後悔に嘆いている暇もなく、すぐに母にも幽波紋が発現したとの連絡が入った。
そして、そのせいで母が倒れたという。

祖父が俺に連絡を寄越したのは、既にエジプトへ向かうため、出国手続きを済ませた頃だった。

当然、止める暇はなかった。理由もなかった。

俺には相変わらず、幽波紋は発現しない。
止める資格も、助けになれる力もない。

俺ばかりが、置いていかれている。

なんと情けない兄だろうか。
なんと頼りない長男だろうか。

母の命を救うためのその旅に、俺は同行できない。
祖父や弟も命の危険が伴うというのに、俺では盾にすらなれないことを解ってしまっていた。

それでも、そんな俺でも、俺は空条家の長男だ。
承太郎は大事な俺の弟で、どんなに強く大きく成長していたとしても、俺からすれば守るべき存在だ。

だから、どうか。
誰にも「助けて」と言わない強く愚かな弟よ。
せめて、生きて還って来い。

そのためなら俺は、いくらでもフォローくらいしてやるから。
お節介と言われようと、俺は俺にできる最大限の助力を、お前に尽くそう。



end




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