メローネと同級生
※注意※
この小説には以下のような内容が含まれています。
苦手かも、と思われた方は自衛をお願いいたします。
・記憶ありの転生
・死ネタ
・悲恋
・病んでる
「前に、何処かでお会いしたことありません?」
なんとも古くさいナンパみたいな言葉を口走っていた。
自分でも驚くほど、まさに『口を突いて出た』言葉。
それを、彼は笑うでも軽蔑するでもなく、アシンメトリーな髪で片方は見えにくいけれど、きれいな両目を一度大きく見開いて、
「オレもそう思うよ!」
…そう言って嬉しそうに笑った。
メローネとは、出会いこそそんなドラマみたいな始まりだったけれど、そこからは至って普通だったと思う。
同じ高校に通う同級生。クラスが一緒で、ある意味では同じ帰宅部。
人並みに勉強して、いっぱいお喋りをして、ちょっぴり馬鹿なこともした。
メローネは時折独特な考えを披露することがあったが、意外…と言っては失礼だけど博識で、ノリも良く、クラスでもムードメーカー的存在だった。
彼といる時間はとても楽しくて、彼のおかげでわたしは高校に通うのが楽しかったと言っても過言ではない。
1年から2年に進級する時にはクラス替えがあったけれど、わたしはメローネとまた同じクラスになれて、他にも何人かの友人と3年間を共に過ごすことが決まり、それはそれは喜んだものだ。
そして3年の夏。
高校最後の夏休みということで、わたしはメローネに誘われて隣町の花火大会へ赴いた。
せっかくだからと何年かぶりに張り切って浴衣なんか着て。
混雑して待ち合わせに困らないようにと、少し早めに決めた集合時間。
電車を降り、待ち合わせの場所へ向かう途中、向かう先から一人の学生が歩いて来るのが見えた。
まずサマーセーターとズボンの色から、ああ、この町の高校の人だと分かった。
あそこは確か結構レベルの高い進学校だったな、補修か何かだったのかな、そんなことをぼんやり考えている内に段々距離は縮まり、相手のことがよく見えるようになってくる。
クセの強い髪、赤い縁の眼鏡、その奥にある、鋭い印象を受ける三白眼…。
「…っ」
目が合った、と思った瞬間には、既に立ち止まっていた。
それはわたしだけじゃあなくて、相手も同じ。
少しの距離を開けて同じように立ち止まり、多分同じようにじっと相手を見つめている。
初めてメローネと話したあの時も、似た感覚があった。
でも、明確に違うことがある。
それは、胸を締め付けるような苦しさ。
何か言葉を言いたいのに、何を口にしたらいいかわからない。
初対面だから当たり前のことだけれど、それがどうしてももどかしい。
「なまえ!」
知らないはずの男の子と見つめ合っている、そんな奇妙な時間はいったいどれくらいだったのだろう。
とても、とても長く感じた。
けれどお互いに話しかけることはできずに、わたしを呼ぶメローネの悲鳴みたいな声で、ぐっと現実に引き戻された。
引っ張られたのは意識だけじゃなく、声の方へ振り返ったとほぼ同時に、強い力で腕を引かれていた。
「メローネっ、待って…!」
慣れない下駄を履いていたわたしには、足早なメローネの速度に着いていくのは容易ではなかった。
転びそうになるのをなんとか踏み止まって、引き摺られるようにしてそれでも足を動かした。
当然足は痛むし、掴まれた腕も痛い。
いつも並んで歩いてくれていた友人が一切振り返らずに何処かへ黙々と進んでいく後ろ姿に、ざわざわと胸が騒ぐ。
こんなメローネは知らない。見たことがない。
賑わう花火大会の会場からは随分と離れ、一転静まりかえったよく知らない細道。…路地裏、と言った方が正しいのかもしれない。
ただでさえ日当たりの悪いそこは、日が落ち始めた今、暗がりへと姿を変えていく。
「……今回はオレの方が早くなまえと逢ってたのに」
「…メローネ…なに…?」
相変わらずこちらを見ないまま立ち止まり、俯いた状態で発せられた声は小さく、とても低い。
聞き取れなかったわたしは、なるべく刺激しないように小さく、最低限の言葉で聞き返す。
「今度はちゃんと時間をかけて、きちんと段取りを踏むつもりだったんだぜ。…でも、やっぱり時間を掛けすぎちまってたかなぁ。あーあ、まさかこんな近くにあいつがいるなんてさ」
『今度は』?『あいつ』…?
独り言のように紡がれる言葉の意味は、正直ほとんどわからない。
けれど、薄暗闇の中でかすかに見えるメローネの表情は、…何かを諦めたような、悲しそうな笑顔だった。
彼の中でどんな感情が渦巻いているのかは計り知れないが、それでもそんな表情をさせているのは、多分わたしなんだと思う。
ずきりと胸が痛むけれど、謝るのでは何か違う気がする。
どんな言葉をかけたらいいのか分からないまま、わたしより高い位置にある、けれど下を向いた彼の頭へと、掴まれていない方の腕を伸ばす。
小さな子供をあやすようにさらさらの髪を撫でると、メローネの肩がびくりと跳ねた。
「…今回も、キミは優しいんだな。なまえはなまえだから、本質的には変わらないってことなのか」
「メローネ、今日はもう帰ろう?…なんだか疲れているみたいだし…ね?」
少し前までの、ギスギスとした雰囲気は、少し和らいだ気がする。
わたしはできるだけ柔らかい声でメローネに提案をしてみる。
いつもなら、「そうだな」って言ってくれるはずなんだ。
そしたら、次に会う時は今日のことなんて気にせずに、またくだらない話がきるはずなんだ。きっと。
そんなわたしの希望を込めた言葉に、メローネはハッキリと言った。
「いいや、もうオレはキミを帰さない」
言うが早いか、掴まれていた手は解放された。
けれど、即座に全身をきつく抱きしめられ、今度は身動きすらできなくなった。
「動かないでくれよ。少なくともオレは、なまえに痛い思いも苦しい思いもしてほしくねぇんだ」
一連の言動に息を呑んでいる間に、耳元で囁かれたそれはひどく優しい声色で、なのに背筋がぞくぞくと凍り付く。
完全に理解が追いつかないわたしの全身は硬直してしまって、暴れることも声をあげることもできず、突然襲ってきた強烈な眠気にあっさりと意識を手放した。
「ごめんな。でも次は、もっとうまくやれるはずだ」
痛みも、苦しみも、何かを悔やんだりする時間も…何もなかった。
ただただ、メローネの声だけが優しく響いた最期だった。
end
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