花京院くんと登校日


◇平和な高校生。生存院さん。


夏休み中盤にある登校日は、正直少し億劫だ。
学校にいるのはたった半日だし、別に授業があるわけじゃあないけれど、朝はキッチリ起きて準備しなくちゃいけないし、なにより行き来の道のりがとても暑い。

でも、友達みんなと会えるのは嬉しいことだから、それを楽しみにちゃんと登校する。
風の涼しさはあまり期待できないけど、日陰を選んで歩けば結構涼しいしね。

「おはよう、みょうじさん」

「あ。おはよう、花京院くん」

日陰から日陰へと渡り歩いていると、同じクラスの花京院くんと出くわした。
…あっちへ行ったりこっちへ行ったりしているところを見られただろうか。
挨拶を交わしながら、わたしは一人顔が熱くなる。

「…今日も暑いね」

「そ、そうだね…」

これは多分見られたんだろうな。と、どこか涼しげにすら見える彼の表情にそぐわないその言葉で悟った。

向かう先が同じでそれなりに親しいわたしたちは、自然と並んで歩き出す。

わたしは恥ずかしさを誤魔化したくて、必死に何か別の話題はないかと考える。
課題のことは個人的にあまり触れたくないし、人に語れるような夏休みの思い出もない。
何かないかな。話題、話題…。

「そういえば、先週のお祭りは残念だったね」

考えている間に、花京院くんが道沿いにある神社の方を見て口を開いた。

「ああ、そうだったね。前日までは天気良かったのに、当日になったら土砂降りで」

「中止にならなければ、僕も行ってみようかと思っていたんだけれどな」

「え、そうなの?なんかそういう騒がしいとこ苦手なイメージだったから、ちょっと意外」

「はは、そのイメージは外れちゃいないよ。…ただ、たまには行ってみようかな、と思ったんだ」

まぁ結局行けてないんだけどね。そう言いながら残念そうに笑う横顔が、なんだかちょっぴりかわいく見えた。

周りの男子より、少し大人びた印象のある花京院くん。
そんな彼でも、こういう小さなことで残念そうにしたりするんだな。なんて、ちょっと親近感。

「ねぇ花京院くん。キミはひとつだけ誤解をしているよ」

「誤解?」

「そう。キミはさっき『中止』と言ったけど、正しくは『延期』なのだよ!」

「ああ、そうなのか。知らなかった」

「…この口調についてツッコみなしは結構キツいよ、花京院くん…」

「え、あ、すまない…!」

勢いでまたひとつ自ら痴態を晒してしまった…。
そしてそこで謝られると更に辛くなることを彼は知らないのだ。

「…こほん。えーっと、あそこのお祭りね、一週間後に延期したんだよ。つまり今日!」

「本当かい?…そうか、すごいタイミングで聞けたな」

「今日は天気の心配もなさそうだし、行けるね!」

「ああ、そうだね」

二人して、見上げる空の眩しさに目を細める。

そして、わたしはふと思いついた。

花京院くんは、今日に延期したことを知らなかった。
と、いうことはである。
つまり彼は誰とも約束していないんじゃないだろうか。

もともとは誰かと約束していたのかもしれないし、そもそも花京院くんは当人が思っているよりずっと人気がある。
だから、今日学校に着いてから、誰かに誘われるかもしれない。

でも今はまだ…。

「…みょうじさんは?お祭り、行くのかい?」

「あー、うん、どうしようかな…」

…なんてタイミングでございましょう。
わたしが声を出そうとした瞬間、花京院くんに先を越されてしまった。
すぐそこまで出かかっていた言葉はどっかにすっ飛んで行き、とっさの返事はなんとも曖昧。

ここからどう切り替えていけばいいのか…。

「もし先約がなければ、…一緒に行かないか」

「え…、花京院くんと?わたし?お祭り?」

「ふふ…っ、どうして急にそんなカタコトになってるんだ、キミは…っ」

思わぬお誘いにびっくりして、彼とわたし、ついでに神社を順番に指さし確認。
花京院くんは、わたしの反応に口元を隠して笑いを誤魔化して…いや、誤魔化せてないね、全然。

「だ、だって…わたしも丁度それ、言おうと思ってたから…びっくりしたの!そこまで笑わなくてもいいのに!」

「え、…そう、だったのかい?」

あ、しまった。
なんだかすごく恥ずかしいことを言ってしまった気がする。

花京院くんのびっくりした表情で、わたしはハッと数秒前の自分を振り返った。
しかし後悔先に立たず。
過去の自分はどうしようもない。

「じゃあ決まり!約束、ね」

どうしようもないので、とりあえず開き直ることにした。

目的が同じだったんだから、結果良ければなんとやら。
そう、前向きに考えることにした。

「ああ。…それじゃあ、このポストのところで待ち合わせ。いいかな?」

「うん。学校終わって、夕方に…もう一度、またここで」

「約束」。今度は二人の声が重なり、なんだかおかしくて一緒に笑った。

今日が登校日であることに感謝しつつ、早く学校が終わって夕方にならないかな。なんて、ちょっと矛盾したことを考えながら、もう一度青い青い空を見上げた。



end
ご応募頂きました台詞を使わせて頂きました。




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