フーゴは苦手意識に阻まれている
◇アニオリのフーゴ過去回想より。
例えば、本や資料を読んでいる時。考え事をしている時。
そうやって物事に集中している時、ぼくは背後から肩に触れられるのが苦手だ。
苦手といっても、少し前のぼくなら触れられた瞬間にその手を思い切りぶっ叩き、払いのけていたのだから…まぁ、だいぶマシになってきていると思う。
今は…ほんの一瞬息が止まる程度だ。
「フーゴ、ちょっといい?」
「っ!…ああ、なまえでしたか。どうしました?」
「…フーゴってさ、もしかして触られるの嫌い?」
「え…?」
「あ、いや。本題とは関係ないんだけどね。なんか、いつもフーゴ…肩とんとん、ってすると一瞬顔色悪くなるような気がして…嫌なら言ってほしいな、と思って」
好きか。嫌いか。
もしもその極端な二択で選べというのなら、答えは後者だ。
けれど仲間に対して「ぼくに触らないでくれ」というのもまた、嫌だった。
せっかくできたんだ。繋いでいたいと思える関わりが。
それに自ら亀裂を入れるようなことを、ぼくはしたくはない。
「…いや、別に嫌いってわけじゃあないんです。集中してると周りが見えなくなるせいかな。ただ驚いただけだから、あまり気にしないで」
「そう?ならいいんだけど…」
そうして彼女はぼくに本題を話し始めた。
資料を指さしたり捲ったりする手は小さくて、薄い。
だけど触れればきっと温かくて柔らかいんだろうな、と頭の片隅で思う。
男特有のごつごつとしたそれとは違う、ぼくの方から包み込むことだってできるだろう小さな温もり…。
「こんな感じでいこうと考えてるんだけど、どうかな。なにかアドバイスあったらお願い」
「ん、ああ…よく考えられてると思う。ただ、ここのリスクヘッジが甘いんじゃあないか?もしここが突破できなかったら、次はどう動くんです?」
「あ、そっか…。確かにそうだね。内部のことばっか考えてた。流石、ありがとうね、フーゴ!」
「いえ」
資料を片付ける彼女の手に、自分の手を伸ばしかけた。
自分から誰かの手に触れたいだなんて、もう何年も思ったことはなかったのに。
嫌いから苦手へ。そしてその苦手さえも、今ではだいぶマシになった。
もし自分から歩み寄ることができたのなら、きっとその時ぼくは…過去に植え付けられた恐怖や嫌悪感から解放されるんじゃあないか。
そんな風に思う。
なのに、どうしてだろう。
「どうぞ」
「ありがと。資料はこれで全部かなーっと…。じゃ、わたしブチャラティに作戦の説明してくる!」
結局その手に触れることさえできなくて、自分の手に残ったのはさらりとした紙の感触だけ。
「なまえなら大丈夫だと思ったんだけれどな…」
自分の手を見つめて、独りため息を吐いた。
背もたれに思い切りもたれ掛かり、目を閉じる。
やけに早い鼓動を感じながら、ぼくはブチャラティと共にまたここへ戻ってくるだろうなまえのことをぼんやりと考えた。
end
臆病なのは何に対してか。
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