メローネに母性本能をくすぐられる
◇なまえさんはパッショーネの一員だけども別チーム。
「よっ、と」
「え、ちょ、メローネ、ちょっとちょっと待ってなに?!」
自室のソファに浅く座り、ローテーブルへ広げた雑誌をぺらぺらと捲っていたわたしの背後から彼は来た。
いや、この場合…背後へ来た、ともいえる。
ソファの背もたれをひょい、と跨ぎ、わたしと背もたれとの隙間に無理矢理身体をねじ込んできたのだ。
脚を開いてわたしの身体を挟み込み、両腕でがっちりとお腹あたりをホールドしているメローネに対し、「わたしはでっかいぬいぐるみか」とツッコんでやりたい。
だけど…何も言わず、顔も見せず。こんな風に触れてくる時は、年に数回あるかないかの出来事で。
こんな時、彼に何があったのか。何がトリガーだったのか。
彼の心を占めるのが恐怖なのか、喪失感なのか、虚無なのか。もしくは、言い知れぬ人恋しさなのかもしれない。
メローネがこうなる要素は何一つわからないけれど、それでも。
…わたしはただぎゅっと体温を確かめるように抱きしめてくるこの両腕を無下にはできない。
「今日のメローネさんは元気ないですねぇ」
わたしは雑誌を放り、メローネにちょっとだけ体重をかけるようにして凭れかかる。
メローネはもぞもぞと体勢を少し変えて、わたしの肩口へ頭を預けた。
ちょっぴり重くて、肩にかかる息がくすぐったい。
「…昔は一人でいるのが当たり前だったのにな…」
はぁ、と溜息混じりに呟かれた言葉は短いもので、掠れるほど小さかった。
それでもここまで至近距離にいれば、聞き逃すことはない。
文字どおり、息がかかる程の距離なのだから。
ああ、まったく…調子が狂う。
「…誰だって、一人はいやだよ」
もしかしたらわたしの相槌は彼に届いていないかもしれないし、まるっきり見当違いかもしれない。
かもしれない、けど。
わたしは此処にちゃんといる。
それがメローネに伝わるように、わたしは彼の腕をそっと撫で、言葉を返す。
彼がこれまでどんな人生を歩んできたのか。わたしは知らない。
女性…特に“母親”というものに対し歪んだ執着があるらしいということは、別のチームであるわたしにも垣間見える瞬間がある。
あくまでも想像でしかないけれど、メローネは…わたしに“母親”の温もりみたいなものを求めているんじゃあないかと、そう、思う。
「ねぇメローネ、お夕飯なに食べたい?今日は好きなの作ってあげる」
メローネを背中にくっつけたまま、わたしはゆらゆらと前後に身体を揺らし、子供にでも聞くような調子で問いかける。
こんなことくらいで元気になってくれるかは不明だけど、正直どうやって甘やかしてあげればいいのかがわからない。
せめて顔が見たいなぁ、なんて思っていると、密着しているメローネの身体が小さく揺れた。
「…ははっ、なんだかなまえが優しすぎて、調子が狂う」
「えー、わたし結構いつも優しいと思うけどなぁ」
軽口を言いながらもわたしの肩へぐりぐりと額を押しつけるメローネの頭を軽く小突いて、そして二人で小さく笑う。
わたしと一緒に、笑ってくれる。
わたしにとってそれはとても嬉しいことであり、同時にほっと安心する。
わたしという存在が、少しでもメローネにとって良いものであればいい。
「オレ、そのうちなまえ無しじゃあ生きていけないカラダになっちまうかもとか、割りとマジに思うことがあるぜ」
「いいよ〜。わたしは生きてる限りずっとメローネの側にいるからさ。多分」
「おいおい、そこを曖昧にされちゃあ困るな」
「んー、でもそれはそれで重くない?」
「…重いくらいでいいんだ。オレとっては、重いくらいが丁度いいのさ。それだけ愛が感じられるだろう?」
「うーん、一理ある、のかな?」
こうやって縋りつくように体温を分け合うことも、同じ空間で息をすることも。
全ては愛があるからこそ成り立つのだとわたしは思う。
もしどちらかの…あるいは両方の愛が変わってしまった時、それでも側にいるというのはあり得ないことだろう。
絶対なんかない。
薄っぺらな口約束でも、それは関係を縛る糸になる。
断ち切ろうと思えば簡単に断ち切れる、それでも指に絡まるような糸に。
そんな糸をひとつの愛だと言うのなら、わたしはいくらでも紡ごう。
「それじゃあ、生きてる限りずっとメローネはわたしの側にいてね」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
end
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