ギアッチョに片思い


◇5部本編より前。


「ただいま戻りました」

「おー、ご苦労さん。白黒コンビ」

「変な呼び方してんじゃねーぞホルマジオ」

ホルマジオの言う『白黒コンビ』というのは、ギアッチョとわたしをワンセットにして呼ぶ時の呼称。
由来は実に単純明快で、ギアッチョはいつも白い服を着ており、わたしがいつも黒い服を着ているから。

「一応聞くが、首尾はどうだったよ」

「聞くまでもねーことを聞くんじゃねぇよ」

「だぁから、一応っつったろ」

「万事滞りなく、です。別段大したこともありませんでしたよ」

「そいつはなにより。…他の連中が集まるまでまだ時間あんだろ。コーヒーでも飲むか?」

「いいんですか。ありがとうございます、いただきます」

「ギアッチョ、おめーは?コーヒーだよ、コーヒー」

「…飲む」

はー、かわいくねぇ。そう言いながらも軽く笑ってホルマジオがコーヒーを淹れてくれる。
なんだかんだ、彼はお兄ちゃん気質なところがあると、わたしはこっそりそう思っている。

「ほらよ」

「ありがとうございます」

「しっかし、なまえも慣れたもんだよなァ」

「…まぁ、流石に1年近く経ちましたからね。ここに配属されて」

「それもあるがよォ、お前、ギアッチョとよく組まされんだろ?幽波紋の相性とかなんとかは置いといて、大変なんじゃねーの?」

「ああ、まぁ…」

本音を言えば、大変な時もある。
新聞を読んでいたかと思えば突然何事かにキレだしたり、暗殺とは、という議題で話し合いたくなるほど大胆な行動をとったり。あと、車とか器物破損もしょっちゅう…。

「本人目の前にしていい度胸じゃねぇか。ええ?おい。…オレのやり方に文句があるってんなら、さっさと一人前になりやがれ」

「あはは、ごもっともです。…でもわたし、やり方どうこうは置いといて、ギアッチョのことは好きですよ」

「…あ゛ぁ゛?!」

「ほ〜ぉ。そいつは意外だぜ」

「わたしが初めてちゃんとした任務に同行させてもらった時、恥ずかしながら少し…取り乱してしまいまして…。その時、ギアッチョが介抱してくれたおかげでなんとか落ち着けたんです」

「あー…、おめーがゲロ吐きまくってたあれかァ〜?」

「ちょっと。濁しといてくださいよ、その辺のニュアンスは!」

人がせっかく濁したのに!ギアッチョのこういうずけずけしたところは…ちょっと、苦手だ。

「…で、おめーはどうなんだよ、ギアッチョ」

「は?」

「女がこんだけ大胆に告白したんだぜ?おめーはなまえが好きか、嫌いか。どっちだよ」

にやにやとした笑みを隠そうともせずに、ホルマジオがギアッチョの方へ身を乗り出す。
…なにやらいつの間にか、わたしが告白をしたことになっているのはどうしたことか。
まぁ、ホルマジオも実のところは本気にしているわけではなく、ただ暇潰しに茶化しただけだろうが。

とりあえず、コーヒーがひっくり返らないようにしっかりと両手でカップを握る。

「…別に、好きか嫌いかで言やぁ…好きになんだろ」

「…へ…?」

怒号が飛ぶか、モノが飛ぶか。
そのどちらかに身構えていたわたしは、ギアッチョの冷静な声と思わぬ返答に、間の抜けた声をあげてしまった。

声こそあげていなかったが、ホルマジオも一瞬ポカンとした表情をしていて、遅れてヒュゥ、と短い口笛を吹いた。

「チームで仲間やってんだ。当たり前だろーが」

「…あ、ああ、そういうことでしたか…」

「おいおい、その理屈でいくと、オレも『好き』の部類かァ?」

「けっ、気にくわねぇがな」

「おお…、マジかよ」

気が抜けて、ひっくり返らないようにと大事に両手で持っていたカップを取り落としそうになる。

…あれは、びっくりした。
本当に、びっくりした…。

まだ心臓がドキドキしている。

だけどそれと同時に、少し…切ない。

チームだから、ではなく、一個人として言ってもらえた言葉だと思ったから。
とりあえず、嫌われてなかったのはよかったけど。

片思いってのは、コーヒーみたいにほろ苦い。

でも、コーヒーはミルクや砂糖、シロップでいくらでも甘くなる。
まだまだ努力の余地はありそうだ。



end




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